九十四.虎牢関の戦い その二
呂布は無敵であった。
猛将『方悦』、名槍家『穆順』、馬鹿力『武安国』、その他諸々の武将を呂布は討ち倒していた。
さらに、橋瑁軍と袁遺軍の2軍が左右から呂布を挟み撃ちしたが、呂布はまるで問題にせず、2軍とも余裕綽々で蹴散らした。
もう呂布に近づく者はいない。
呂布は無人の荒野を駆けるがごとく戦場を駆け抜けていた。
「ふははははは!!お前たちが戦う意志を見せなければ、俺はこの戦場を破壊し尽くすだけだぁ!!」
呂布は豪語しながら戦場で逃げ惑う連合軍兵を蹴散らしていった。
全てのモノを破壊する竜巻のごとき武勇を目の当たりにした袁紹と曹操は頭を抱えていた。
「・・・曹操どうする?」
「どうするもこうするも奴を倒す策は一つしかあるまい。」
「えっ!?策あんの!教え天丼!!」
藁をも縋る思いで袁紹は曹操に尋ねた。
曹操の考えた起死回生の一手。
それは正気とは思えぬ策であった。
「策という策ではないがな。呂布を倒すには『人海戦術』しかない。連合軍の全兵を片っ端から奴に当たらせるのだ。そして疲れ果てたところを生捕りにする。それしかもう策はあるまい。」
「・・・それしかないのか?」
「・・・ない。」
袁紹と曹操は2人してため息を吐いた。
『呂布vs連合軍全員』
正気とは思えぬ曹操の提案であったが、今の呂布を止める手立てはそれしかなかった。
百年に1人。否。数百年に1人の武人である呂布を倒すためには連合軍全員で戦いを挑むしかなかった。
曹操の提案を受け入れ、各陣営に伝令を発しようとしたその時、落雷のごとき叫び声が戦場に鳴り響いた。
「袁紹どこにいる!かかってこい!木端微塵にしてやる!!」
呂布が袁紹軍に向かい突撃してきたのだ。
「「りょ、呂布だぁぁぁぁぁ!!」」
呂布が近づくや否や、袁紹軍の兵たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ惑い、本陣が一気に崩れかけた。
「退くな!逃げるな!呂布と戦え!戦うんだ!」
袁紹は懸命に指揮を取ろうとしたが無駄であった。
呂布の武勇を面前で見て、誰が彼に立ち向かおうか。
袁紹はズタボロにされる本陣を捨て、兵に紛れて呂布の追撃から逃れるしかなかった。
本陣の一角を壊滅させた呂布は、次に公孫瓚の陣へと突撃していった。
「うわっ!こっちに向かってくる!皆の者!奴を討ち取るのだ!!」
しかし、公孫瓚の兵も袁紹の兵同様、呂布の姿を見て蜘蛛の子を散らすように逃げてしまった。
逃げ惑う兵たちを赤兎馬は吹き飛ばし、踏みつぶし、蹴り殺した。
最強なのは騎手だけではない。馬も最強なのだ。
燃えるような鬣をなびかせ、赤い馬体を血でさらに赤く染め上げるその姿。
まさに戦闘馬鬼と称しても過言ではないだろう。
「うおおぉぉぉぉあああぁぁぁぁ!!!」
馬鬼の背中で鬼が哭く。
(楽しめる・・・そんなふうに考えていた時期が俺にもあったが・・・期待外れだったか。)
方天画戟で公孫瓚の兵を薙ぎ倒しながら、呂布がそう考えたその時、1人の男が呂布の目の前に姿を現した。
「待てっ!呂布!燕人張飛ここにあり!俺が相手になってやる!!」
呂布の目の前に現れた男は『張飛翼徳』であった。
「・・・面白い!全力で貴様を殺すとしよう!!」
そう言って呂布は、張飛に向かい赤兎馬を走らせ、方天画戟を一振りした。
呂布の渾身の一振りを蛇矛で受け止める張飛。
瞬間、互いが理解する。互いの強さを理解する。
呂布は余裕の顔から一変、真剣な顔へ。
元より真剣な顔の張飛はさらに真剣な顔へ。
両者ともに顔色を変え、心と体で思うシンプルな言葉。
((強いッ!!))
三国志最強の2人の漢の戦いが始まる。




