七十六.危険はすぐに除去すること
曹操と陳宮の口調を少しフランクにしました。
前のままでは2人を動かしづらかったので。
「ノックしてもしも~し!呂伯奢さんは御在宅でしょうか?もしも~し!!」
曹操は呂伯奢の屋敷に着くと、屋敷の門をドンッドンッと叩き、屋敷の主を呼んだ。
しばらくすると屋敷の主が門に来て、屋敷内から外にいる曹操たちに問いかけた。
「はいは~い。どなたですかな?」
「曹家の曹操ですぅ!父がいつも世話になっておりますぅ!!」
「おお!曹嵩殿のご子息の曹操殿か!すぐに門を開けますね~っと!」
屋敷の主である呂伯奢は門を開け、曹操たちを屋敷の中へと迎え入れた。
屋敷内の客室に招かれ、曹操たちは水を飲んで一休みしていた。
曹操たちが心を落ち着かせたと見ると、呂伯奢は曹操たちに事の次第を尋ねた。
「曹操殿。お主の人相書が各地にまわっているようだが・・・一体お主は何をしでかしたのかな?」
そう言って、呂伯奢は各地にまわっている曹操の人相書を曹操に渡した。
人相書を受け取った曹操は笑みを浮かべてこう返した。
「な~に。逆賊董卓の暗殺に失敗しただけですよ。ちょっと剣で一刺ししようとしただけなのに、あの糞ゴミデブ虫の奴が予想以上に怒ってしまっただけのこと。それだけのことです。・・・しかし、この人相書はいまいちですな。私はもう少し美男子ですぞ。それに賞が千金と大名のどちらかとは・・・対価としては少々安すぎますな。ハハハ。」
「ひぇっ!!そ、そうですか・・・ハハハ。」
曹操はハハハと笑って答えていたが、呂伯奢の顔は酷く引きつり、苦笑いしていた。
そんな呂伯奢に対し、曹操は言葉を続ける。
「おっと、そういえば連れの者の紹介を忘れておりましたな。こちらは陳宮といって中牟県の関門の守備隊長を務めている者です。もっとも、私を助けてしまったために今は無職となってしまいましたがね。」
曹操の紹介と同時に陳宮は呂伯奢に対し頭を下げた。
頭を下げた陳宮に対し、呂伯奢は手を差し出して感謝の意を示した。
「陳宮殿。よくぞ曹操殿を助けて下さいました。曹家の友人としてお礼申し上げます。これからも曹操殿を助けてやってください。」
「もちろんです。同志ですから。」
「頼もしいですな。・・・ともかく2人とも、今日はこの屋敷でゆっくり休んで下さい。私は隣村まで酒を買ってきますので。」
「お気遣い感謝します。」
曹操と陳宮は拱手して、部屋を出る呂伯奢を見送った。
それからしばらくして、曹操と陳宮が雑談をしていると、隣の部屋から物音が聞こえていた。
(むっ!この音は!)
「???曹操殿?どうかなさいましたか?」
「しーっ!」
曹操は口元に右手の人差し指を当て、陳宮に声を出さないよう指示をした。
曹操と陳宮は気配を殺し、隣の部屋に続く扉に近づいて聞き耳を立てた。
(シャー、シャーという鈍い音・・・これは刃物を研ぐ音だ。)
隣の部屋から刃物を研ぐ鈍い音が聞こえた。
そして、その音に次いで数人の男女の話し声が聞こえてきた。
「早く縛るんだ・・・暴れられる前に縛り上げるんだ。いいな?」
「背後にまわれ。後ろから殺すんだ。」
「おばば様。獲物の準備は出来たか?」
「イ~ヒッヒッヒッ!ヒ~ヒッヒッヒッ!もちろんですとも。今夜の得物は最高ですぞ。」
その会話を聞いた曹操は、額に手をやり状況の確認をした。
「・・・刃物を研ぐ音と今の会話、それに呂伯奢の行動。・・・間違いない。呂伯奢の奴、隣村まで酒を買いに行くとか言っていたが、その実、役人に密訴して恩賞をあずかろうとしていたのだ。」
「・・・曹操殿。私も同じ考えです。」
「貴公も同じ考えか。・・・ならば先手を打つまで。行くぞ陳宮殿。」
「おう!」
曹操と陳宮は腰に差していた剣を抜くと、扉を蹴破り隣の部屋へと突撃した。




