七十三.探す時は血眼で
「・・・帰って来んな?」
曹操が試乗と称し、馬に乗って丞相府の門外へと駆け出して幾何か時間が経過したが、曹操は丞相府へ帰ってこなかった。
それもそのはず、曹操はそのまま逃げ出してしまったのだから帰るはずもなかった。
「曹操の奴は一体何処まで駆けて行ったのだ?」
董卓が何度か呟いた後、無言を貫いていた呂布は口を開き、自分の考えを董卓に述べた。
「・・・董卓様。奴はもう此処には帰ってこないでしょう。」
「なにっ。どういうことだ?」
「先ほどの名剣を献じた時より、奴の態度はおかしくなっておりました。奴はその剣を董卓様に献上するつもりなどなく、別の事に使うつもりだったのでしょう。」
「確かにあの時より奴の態度は少しおかしくなったな。・・・して別の用途とは一体なんじゃ?」
「・・・おそらく奴はあの剣を使って董卓様を暗殺するつもりだったと思います。」
「なにっ!このわしを暗殺するつもりだったと!!」
「はい。そう考えれば、奴が馬に乗ってこの場を離れたことに説明がつきます。」
「ぐぬぬ!確かにお主の言う通りじゃ!・・・李儒!李儒はおらぬか!!」
董卓は怒り心頭。李儒を呼びつけ、彼に事の次第を告げた。
「かくかくしかじかであ~ん!いや~ん!な事態になっておるのだが・・・お主はどう思う?」
「なんとっ!それはマズイ!非常にマズイですぞ!豹を檻から逃がしてしまったも同然です!曹操の奴は董卓様を暗殺しようと企んでいたに違いありません!!」
「お主もそう思うか!くっそーーー!曹操の奴め!普段の恩を忘れてわしに楯突くとは!すぐに奴の屋敷に向かい、奴をひっ捕らえろ!」
「はっ!!」
董卓は曹操の屋敷に部下たちをやったが、曹操はおらず、もぬけの殻であった。
部下たちからの報告を聞いた董卓は怒りが頂点に達した。
「あの糞ガキャー!もう許さん!奴の人相書を全国に回せ!奴を生け捕りにした者は大名に!首を取ってきた者には千金の賞を与えると書き記せ!」
「はっ!!」
「それと同時に奴の身辺を徹底的に調べ上げるのだ!奴1人の企みとは到底思えん!協力者がいるはずだ!奴だけでなく協力者一同もひっ捕らえるのだ!」
「御意!!」
董卓からの命を受けた部下一同は、曹操だけでなく董卓を暗殺しようとした一味全員を血眼になって探し始めたのであった。




