六十五.波乱の人生の幕開け
李粛の悪魔の囁きを聞いた呂布は丁原の幕舎を訪れていた。
「おお呂布か。こんな時間にどうかしたのか?」
呂布は俯き、丁原の顔を見ずに黙っていた。
彼は呼吸を整え、これから自分が行う行動を肯定するのに心血を注いでいた。
一方、丁原は義理の息子である呂布を全く警戒せず、武器を持たずに呂布に近づいた。
そして、丁原が呂布の目の前にまで近づいた時、呂布は顔を上げて剣を抜き、丁原の首に向かい剣を一振りした。
「あっ!」という言葉も出すことなく丁原の頭と胴体は別れた。
別れの挨拶は無し。
懺悔の言葉は無し。
動機の説明は無し。
丁原は何一つ分からずに義理の息子の呂布に殺されたのであった。
呂布は迷いたくなかった。
迷いは悩みに連結し、悩みは混乱へと繋がり、混乱は破滅へと導くからだ。
呂布は迷うことなく、丁原をこの世から葬り去ったのであった。
床は血に塗れ、首の斬り口からは赤々と鮮血が流れていた。
呂布は転がり落ちている丁原の頭を一目見て軽く頭を下げた。
そして、丁原の幕舎を出ると、軍の中央にたち大声でこう叫んだ。
「よく聞け皆の者!丁原は小者故、俺が斬った!この判断に異を唱える者はこの場から立ち去れ!この判断を良しとする者は俺に従え!!」
この呂布の発言を聞いて丁原軍は一時混乱したが、ほどなくして混乱は収まり、兵の半分はこの場を去り、残りの半分は呂布に従った。
この様子を見た李粛は手を叩いて呂布の行動を褒め称えていた。
「見事なり呂布将軍!コレから先、真の英雄のためにその腕を振るうがよい!(バンザーイ!大成功だぜーー!!)」
そしてすぐに、董卓の陣に帰り、董卓に策が成功したことを告げた。
董卓は大いに喜び、その大きな体を揺らして李粛を褒め称えた。
明くる日、董卓は呂布のために宴を開き、自身が出迎えるなど呂布を丁重に陣に迎え入れた。
「呂布よ。わしのもとに来てくれたこと誠感謝する。その感謝の印としてコレをお主に渡そう。」
董卓はそう言って黄金の鎧や金銀財宝を呂布に渡した。
黄金の鎧を受け取った呂布は感極まり、董卓に忠誠を誓った。
主君を殺して美酒を飲み干し、彼は有頂天になった。
ここから波乱の人生が始まるとも知らずに。




