六十四.暗黒面なら救える
赤兎馬の毛並みを十分に堪能した呂布は笑顔全開で李粛のいる自分の幕舎に入った。
「おまたせぇ~~!!」
(うわぁ~~~!気持ち悪っ!!)
呂布の満面の笑みを見た李粛は素直な感想を頭の中で叫んだ。
李粛の表情を見て呂布もそれを察したのか、コホンッ!と軽く咳払いをしていつもの厳つい表情へと戻った。
そして、幕舎の隅に置いてあった高級酒を手に取ると、杯を2つ準備し、それに酒を注いだ。
1つの杯を座っている李粛に渡し、自分も着席すると乾杯の音頭を取った。
「久方ぶりの再会を祝して。」
「「乾杯!!」」
2人は杯を掲げ、一気に飲み干した。
その後、御馳走が運ばれ、2人は豪華な食事と酒を楽しんだ。
宴も大いに盛り上がり、終わりに近づいた時、李粛が話を切り出した。
「・・・時に呂布よ。私はお前を不憫に思うよ。よく考えてみたら、赤兎馬という名馬をお前に贈り物として渡したが、それを活かす機会がお前には無いからな。(さぁゲームスタートだ!!)」
「・・・何っ?」
李粛の発言を聞いて、ご機嫌だった呂布の顔が真剣な表情になり、片方の眉がピクリと動いた。
場が一気に緊張感で高まったが、李粛は動じることなく言葉を続けた。
「それはそうであろう。丁原という小さき者に従っている以上、赤兎馬を活かす機会などあるはずがなかろう。お前のような武将が惜しいモノよ。(落ち着け・・・落ち着くんだ私・・・まだあわてるような時間じゃない。)」
「・・・ふっ。そう言われてもどうにもならんさ。俺は丁原に恩がある。それに丁原は俺に良くしてくれているからな。」
「そうか・・・お前ほどの武将が惜しいな。(もう少し・・・あと少しだ!!)」
李粛はわざとらしくも意味ありげな口調で残念がる言葉を吐いた。
李粛のわざとらしい言葉を聞いた呂布は少し黙った後、李粛に人生相談を始めた。
「・・・なぁ、やっぱりお前も俺の人生が惜しいと思うか?」
「もちろんであろう!お前のような勇猛果敢な男が訳の分からん小者のもとで一生を終えるなど、友として見過ごすわけにはいかん!お前はもっと大きな・・・そう、天下の英雄のもとで活躍するのがふさわしいと私はおもうぞ!うん!!(キターーー!このアホが!見事に釣れおったわ!!)」
「うっ・・・む。・・・やはりそうなのか。・・・しかし、今の世に天下の英雄と言える人物がいるのか?」
「ぬふふふ。もちろんいるとも。それは董卓将軍だ!!(やったーーー!決まったーー!フィーバーーー!アウッ!!)」
「董卓将軍っ!!」
呂布は驚きの声を上げた。
董卓軍は先日、呂布が血祭りに上げた軍であったからだ。
狼狽える呂布に李粛が畳み掛ける。
「董卓様は力がある!権力がある!性根が違う!優しさにあふれている!魅力がある!だから皆が慕う!素晴らしいお方だ!(畳み掛けろーーー!押しつぶせーーー!!)」
「お、おう。・・・し、しかし董卓軍は俺が先日・・・」
「それがだな!董卓将軍はそんなことは気にしていないのだ!先ほどの赤兎馬、それにこの袋の中に入っている金銀財宝!それらは全て董卓将軍がお前の武勇に惚れて差し出したものだ!(逃がすかボケェ!このマヌケがぁ!!)」
「なにっ!!と、董卓将軍が俺に・・・だと・・・。」
単純な呂布は李粛の巧みな話術に諭され、陥落寸前であった。
「呂布よ・・・どうする?このまま小者の丁原のもとでつまらん一生を過ごすか?それとも天下の英雄である董卓将軍のもとで大いに活躍するか?(あと一歩!あと一歩!)」
「ううむ・・・。」
「もしお前が自分の才能を活かしたいというなら。天下にその名を轟かせたいというなら・・・ヒソヒソヒソ。(勝った!計画通り!!)」
李粛は呂布の耳元に悪魔の囁きをしたのであった。
暗い夜に風が吹き、静かな大地に赤兎馬の蹄の音が鳴り響いた。




