六十二.犠牲はつきもの
「呂布を手に入れる!!」
董卓は呂布に敗れるや否や、部下たちにそう宣言した。
呂布の武勇を目の当たりにし、呂布さえ手に入れれば天下を手に入れたも同然だと董卓は思った。
それと同時に呂布を何とかしなければ、このまま丁原になすすべもなく敗れるとも思った。
大敗した明くる日の幕舎の会議にて、董卓はまたもや呂布の事を口に出していた。
「天下を我物とするため!そしてこの状況を打破するために呂布を手に入れたい!諸君!何か策は無いか!!」
「「う~~む。」」
董卓の無茶な要求に腹心の李儒を含め、董卓の諸将たちが頭を悩ませていると、1人の人物が手を上げた。
「ぬふふふ。董卓様。私めにお任せを。」
諸将たちが目をやった先にいた人物。
それは李粛という人物であった。
李粛は呂布と同郷の生まれ(=五原郡の生まれ)で、呂布の性格をよく知る人物であった。
「李粛か。何か策があるのか?」
「ええ。今から私が申します『あるモノ』を準備して下されば呂布を懐柔してご覧にいれます。」
呂布は武勇に優れる人物であったが、少々頭の回らぬ人物、悪く言えばアホであった。
李粛はアホの呂布を言葉巧みに騙し、それと同時にモノで懐柔しようとしていた。
「ほう。随分と自信があるようだな。・・・してその『あるモノ』とは何ぞや?」
「はい。一匹の名馬と金銀財宝の詰まった袋を頂きとうございます。」
「一匹の名馬だと?・・・まさか!!」
「はい。名馬『赤兎馬』にございます。赤兎馬を呂布に差し出せば、知恵の足らぬ呂布のこと。上手く懐柔できると思います。」
『赤兎馬』
一日千里を走ると言われ、馬体は真っ赤で、その鬣は炎のように流れるという、稀代の名馬であった。
李粛の策を聞き、董卓は悩んだ。
赤兎馬は、同質量の金銀財宝より価値があるからだ。
お金では買うことが出来ない名馬中の名馬。
天下を手中に治め、赤兎馬に乗り、自由に世を駆けるのが董卓の夢であった。
「う~~む。赤兎馬か・・・。う~~む。」
悩む董卓に李粛が喝を入れる。
「董卓様!馬と天下!どっちが大切なのですか!!」
「どっちも大事じゃ!・・・しかし、どちらかと言えば天下かのう。」
「でしょう!将軍の夢はわかります!でも今は天下をお選びください!」
「・・・わかった。名馬を差し出し天下を手に入れるとする。」
董卓は両方とも手中に収められないよりはましだと考え、赤兎馬を手放すことにした。
『何かを犠牲にすることで、新たな次元へと引き上げられる可能性』
董卓はその可能性に賭けてみることにしたのであった。




