五十四.流浪の蒼天
張譲一行は馬車を走らせ、北の翡翠門から洛陽を抜け出していた。
必死に、そう、ただ必死に馬を走らせた。
荒野を走らせ、沼地を走らせ、今は河沿いをひた走っていた。
彼らに向かう先などない。ただ洛陽を離れて、その場をしのぐしか手は無かった。
しかし、それもすぐに限界が来た。
張譲一行を捕らえるべく追手が彼らに迫りつつあった。
「追手が!追手がそこまでやって来た!張譲殿!!」
「・・・もはやこれまで!万事休す!さらば我が人生よ!」
死期を悟った張譲はそう言って自ら河へ飛び込んだ。
それを見た段珪もまた自ら河へと飛び込んだ。
悪名高き十常侍の最後の2人の最期は入水による土左衛門であった。
馬車を運転していた張譲と段珪の2名が馬車から飛び降りたことにより、馬車は制御不能になった。
制御不能となった馬車は河へと突っ込み、新帝と陳留王は命からがら川岸に泳いで逃げのびた。
「帝しっかりして下さい!帝ぉぉぉぉお!!」
しっかり者の陳留王は溺れかけた新帝の頬を何度も叩き目を覚まさせた。
「い、痛い!何だ!何だ!何が起こったんだい弟よ!」
「目を覚まされてなによりです!帝が溺れて目を覚まさぬので、私が帝の体を必死にゆさぶり呼びかけていたのです!」
「そ、そうか。それは感謝する。・・・にしても頬が痛く感じ」
「帝!ここは危険です!歩けるだけ歩いてみましょう!」
陳留王は帝の手を握り、道に沿って歩き始めた。
時刻は既に真夜中であり、周囲に民家はなく、ただ暗闇が広がるだけであった。
暗闇が広がるだけ、いや、そうではなかった。
暗闇の中を漂う無数の小さな光があった。
陳留王はその小さな光を凝視した。
「あれはなんだ・・・見ろ!蛍さんだ!」
「何で急にタメ口に」
「いいから帝見てください!綺麗ですよ!ホラッ!!」
蛍は風に舞い、目の前をふわふわと輝かせ、まるで星の光の群れの様であった。
一匹一匹の光はとても小さく弱々しいモノであったが、2人を勇気づけるには充分であった。
洛陽を離れさまよう蒼天たち。
彼らは道なき道を進むしかないのであった。




