五十.悪い噂を広めてはいけない
屋敷に戻ってきた何進に袁紹が尋ねた。
「将軍。何后様は何と言われたのですか?」
「えっ?あ、いや・・・その・・・だな。兵を・・・だな。」
何進は歯切れ悪く、中々ハッキリと答えようとしなかった。
ハッキリと答えない何進を見て袁紹が察し、彼を戒めるべく怒鳴った。
「この馬鹿将軍!優柔不断にも程があるぞこらッ!!」
「ば、馬鹿将軍だと?お主、私に向か」
何進が袁紹に「言葉に気をつけろ」と文句を言おうとしたが、袁紹はそれを許さず、畳み掛けるように自身の考えを述べた。
「将軍!それがあなたの悪い所だ!十常侍の奴らは将軍を陥れるために卑怯千万な策を放ち、それが露見するとあなたの弱みである何后様に命乞いをする!そしてあなたは何后様の言われた通りに事を済ませてしまう!」
「こんなことを繰り返していたら、状況が良くなるどころか悪化してしまいますよ!すぐにでも考えを改め、十常侍を討ち滅ぼすべきです!!」
「そこで私に一計があります!この世界に広がる英雄たちに檄を飛ばし、英雄たちの力を結集して乱世の元凶を討ち滅ぼすのです!英雄たちの力があれば将軍も迷うことはありますまい!!」
袁紹の魂のこもった熱弁を聞いた何進は心動かされ、短絡的思考の彼はこう宣言してしまった。
「う、うむ。そ、それぐらいの事は私も考えておったわ!よし!では袁紹よ!すぐに四方の英雄たちに檄を飛ばすのだ!!」
「御意!!」
盛り上がる2人の様子を陰で聞いていた曹操は独りせせら笑った。
「あいつらアホか。そんなことしたら漢王朝の乱れが、各地の野心家に知れ渡ってしまうだろうに。十常侍だけを片づければ済む話をこうも大げさにするとは何と愚かな・・・。今に天下は大きく乱れるだろう。」
曹操はそう独り言を呟いた。
しかし、彼は自分の考えを何進や袁紹に進言しなかった。
曹操は内心、天下が乱れることを喜んでいた。
先ほど呟いた『各地の野心家』の中に自身も含まれているからであった。
曹操は何進ごときの下でこき使われるような人物ではなかった。
彼の手綱を握ることの出来る人物などこの大陸には存在しないだろう。
曹操の覇王としての器は広く、底知れぬ深さであった。




