四十八.静かな余生を過ごしたい
「終~~了~~!はい、終~~了~~!私を殺そうとした蹇碩は罰した!もう十分である!皆の者引き上げるぞ!!」
何進は宮内にいる全兵に退却命令を下した。
この命令を聞き、諸大臣があっけにとられていると、彼らを代表して袁紹が叫んだ。
「しょ、将軍!何を馬鹿なことを言っているのですか!十常侍一味はまだ数名生き残っております!彼らを根絶やしにせねば、いつか寝首をかかれますぞ!」
袁紹に続き「そうだ!そうだ!」という意見も聞こえ始めたが、何進は聞く耳を持たず彼らを怒鳴りつけた。
「やかましい!私がもうよいと言っておるのだ!それにこのまま戦いを進め、城下にまで戦の火の粉が降り注いでしまったらなんとする!ここは早々に引き上げるのが得策である!」
「し、しかし将軍・・・」
「くどい!それ以上ガタガタと抜かすならお主も罰するぞ!!」
袁紹の進言も無視して、何進は軍の退却を強行したのであった。
やることなすこと中途半端に終わらせる何進。
彼の末路はもう決まっているようなものであった。
宮中での争いから数日が経過した。
宮内にて何進と何后の2人が今後についての話をしていた。
「兄さん。以前お話していた件ですけど・・・そろそろ実行に移す時かと。」
「うむ、確かにな。・・・では計画を実行に移すとするか。」
「ええ。これで弁が皇帝になれますわ。」
「そうだな。我らの未来を祝して・・・」
何進と何后は酒の注がれている杯を手に取り、乾杯をとった。
さらにそれから数日が経過した。
その日は特に変わりなく、ただのいつもの日常であった。
しかしこの日、漢王朝の終わりを暗示する出来事が起こるのであった。
董太皇はこの日、洛陽を離れて河間という片田舎に引っ越すことになっていた。
協皇子を可愛がり、帝に跡継ぎを進言した董太皇を何進、何后の両名は都から追い出すことにしたのだ。
「董太皇様。お時間です。そろそろ屋敷を出て頂かなければ日が暮れてしまいます。」
護衛の言葉を聞き、董太皇は悲しげな表情を浮かべた。
長年住んできた王宮を離れ、人知れぬ片田舎に1人引っ越そうというのだ。
董太皇の表情が冴えるはずがなかった。
「胸中お察しいたします。ですが、我らはどうしようもありません。董太皇様。どうかお願い致します。」
「・・・わかりました。あなた方には落ち度はありませんものね。河間に行くとしましょう。」
董太皇は護衛に連れられて、馬車へと乗り込んだ。
暗雲立ち込める洛陽を離れ、片田舎である河間でのんびり暮らそう。
争いの無い平和な土地で余生を楽しもう。
せめて、生涯を終えるなら静かでありたい。
董太皇はそう願いながら、洛陽の地を離れた。
しかし、彼女の願いは叶うことはなった。
董太皇はその日死んだ。
河間への道中で何進の刺客の待ち伏せに合い、その生涯を終えたのであった。




