三百九十五.狂ってはいけない
外は寒い寒い。
呂布を含む将兵たちは、皆、戦袍(=戦闘服)の下に綿衣を厚く着込み、氷雪をしのぐための身支度を始めていた。
それででででで、呂布の部屋の様子であるが、
「―――あなた、そんな厚着をして何処へ行くのです?」
呂布の妻である厳氏が怪しみながら尋ねると、呂布は、
「これから城を出て曹操軍と戦うのだ。ひぃとてっくを着込まねば、此方が凍え死んでしまう。」
と、戦の決意を熱く語った。が、その語りを聞いた彼女はびっくら仰天して、顔を青ざめ、声を張り上げた。
「城を出るですって!あなた正気!!元々狂った頭が、更にトチ狂ったんじゃないの!!!」
「い、いや、俺は正気だ。今ここで城から打って出ねば、城の危機は免れぬ。そう判断しての行動だ。」
「それは、あなた自身の判断なの!!」
「い、いや、仲間と・・・陳宮と相談しての判断だ。俺が城外で戦い、陳宮が城より呼応して戦うという完璧な作戦を考えた。必勝は間違いない。」
「ああ!ああ!あああああ!あなたは何て馬鹿なの!この城を他人に預けて城外へ出るなど、アホを通り越して、バカを通り越して、マヌケを通り越してのクソよ!クソクソ!ドクソよ!わーーーーーんっ!!!」
色を失った面持ちで厳氏は泣き始めた。
これにはさすがの呂布も困惑して、泣き喚く妻に一声かけた。
「う・・・む・・・厳氏よ、そんなに泣くでない。俺を・・・皆を信頼して城で待っていてくれ。俺は必ず生きて帰る。」
しかし厳氏は、なおもさめざめと泣きだして、逆に彼を口説き始めた。
「俺を?皆を?信じてくれ???・・・ふざけないで!あなたは私を信じないの!愛する妻の言葉を信じないの!城に残る妻子が可哀そうだとは思わないの!!」
「此度の作戦は陳宮が考えたそうですが、アレの前身を思い出してごらんなさい!アレは以前、曹操と主従の誓いを結んでいたのにもかかわらず、『曹操悪人や~ん!こんな男には付いて行けへん!ほなさいなら!!』と言って、曹操を見捨てた男ではありませんか!!」
「そのような男を信頼するあなたは精神異常者!トチ狂ったサイコマンです!ニャガニャガニャガ~~~~ッ!!!」
目を腫らし、本気泣きして訴えてくる妻に、呂布は途方に暮れた顔をした。
「・・・ですもの、もう終わりです。陳宮のような不埒な輩に城を明け渡すのであればもうおしまいです。彼は曹操に浮気心を抱き、あなたを見捨てるでしょう。・・・そうなったら、私も娘も、これがあなたとの最後の別れでございます。シクシクシクシク。」
恨みつらみを並べる厳氏。
そんな愛する妻の口説きに、呂布はまたしても気が変わって、作戦を中止することにした。
「わかった。わかったからもう泣くのは止めろ。お前の言うことも一理ある。城から打って出るのは中止としよう。これでよいだろう?」
「本当に?」
「本当だ。」
「あ、そう。なら良かった。後は好きにしていいわよ。よかった。よかった。」
呂布から戦を中止するという言質を聞いた厳氏は泣くのを止め、そそくさと部屋から出て行ったのであった。
※言質を言質と誤読する人もいるらしいのですが、
「言質を言質と読んどるやつアホ過ぎwwwww」
なんて風に、人の誤読を狂ったように嘲笑うサイコパスマンは、異世界に行って、モンスター相手に大量虐殺でもしてて下さい。
そしてそのまま、生涯を異世界で過ごしてどうぞ。




