三百八十一.疑われる様なことをしない
陳登は蕭関に着くと、砦を守っていた陳宮と副将である臧覇の二将と面会をした。
彼は、初めは蕭関での戦況を問うていたが、話が一段落すると、
「時に、御二方は呂布将軍から疑われる様なことを何かなさったのか?」
と、囁いた。
「「いや・・・そんな覚えはないが。」」
陳宮と臧覇は互いに顔を見合わせた。
二人は日頃より呂布に忠義を尽くしており、煙たがられることを彼にしたことがあっても、疑われるようなことをしたつもりはないはずであった。
「・・・何故そのような質問をなさるのだ?」
不安に駆られた陳宮が問いかけると、陳登は、深刻そうな表情で答えを返した。
「実は・・・呂布将軍が何故か此処に軍を進めなさらないのだ。」
「えっ!? そ、そんな馬鹿な!援軍が来なければ、この蕭関は敵の手に落ちますぞ!」
「一体、将軍は何を考えておられるのだ?」
「・・・わからぬ。わからぬからこそ、御二方にお尋ね申したのだ。・・・本当に身に覚えがござらぬのか?」
「「ない!ナッシングである!!」」
両名は懸命に弁を述べ、自身の身の潔白を証明しようとしながら、同時に、蕭関の危機を改めて呂布に伝えて欲しいと陳登に願い出た。
「――――陳登殿。貴公は呂布将軍のお気に入りだ。どうかこの蕭関に援軍をよこすよう将軍を説得して下され。」
「・・・わかりました。やってみましょう。」
「おおっ!よろしくお願いしますぞ!!」
その夜、頭を下げる両名に見送られながら、陳登は蕭関の砦を後にした。
そして、その道中にて、
(・・・あれか。)
闇夜の中に、微かな火の灯りが見える。
陳登はその灯りに向かい、一通の矢文を射こむと、何食わぬ顔をして呂布の陣営へと降りたのであった。




