三百六十.常識に縛られない
エンショウ、ウゴク。
キケン。
スグカエレ。
荀彧からの手紙を読むに、河北の袁紹が都の空虚をうかがい、大動員を発令したとのこと。
「―――――袁紹が動いただと!それはいかん!すぐに都に引き返すぞ!!」
決断は早いに越したことはない。
曹操は張劉連合の追撃を諦め、飛ぶように都への帰還を急いだ。
この敵方の慌て振りに、張繍と劉表は、逆に追撃を始めようとした。
しかし、・・・
「テハハハハ。追ったら必ず痛い目にあいますぞ。」
先見の明を持つ賈詡の諌言であったが、両将は、
「いや!奴は今ここで潰す!すぐに追撃開始じゃ!!」
と、追撃を始めた。
もちろん、その結果は敗北。
屈強な伏兵にぶつかり、彼らは惨敗の上塗りをしてしまった。
「トホホ・・・これはもう無理じゃ。」
懲りた顔をする二将であったが、賈詡はそれを見て、
「テハハ!? 何を言っているのです!追撃するタイミングは今です!此処です! NOWなのです!追撃を再開するのです!」
と、今度は攻め立てるように彼らを励ました。
二の足を踏んだが、賈詡は自信満々に励ますので、彼らは彼の言葉に乗って追撃を再開した。
その結果は・・・なんと大勝!
戦を挑んだ連合軍は、存分に敵を打ち倒し、凱歌を上げて国に帰ることが出来た。
「しかし、実に奇妙だ。何故あのタイミングで追撃を促した?何故お前には勝敗の結果がわかるのだ?」
二将の問いに賈詡は、
「テハハハハ。この程度は、兵学では初歩中の初歩です。」
「退却時に敵の追撃を予測し、強者を後ろに備えておくのは退却の常識。曹操がその常識を守らぬわけがございませぬ。そのため、一度目の追撃の時、私はそれを警戒して御二方を諌めたわけです。」
「二度目の時は、敵は追撃兵を破ったので油断したに違いないと思い、敵の虚を突けば、勝てると信じたわけです。」
『常識を破るには常識外の事をするしかない。』
賈詡は『追撃戦に敗れた後、また追撃戦を行う。』という常識を超えた戦いで、連合軍に勝利を掴ませたのであった。




