三百四十八.優しさだけでは生きられない
明くる日、陣中にとあるモノが曝された。
糧米総官の王垢の首である。
昨夜、曹操は王垢を呼び寄せると、自分の失態を棚に上げ、王垢に罪をかぶせて彼の首を刎ねたのであった。
『三十万の兵と一つの首』
天秤に掛けた時、どちらが重いかは曹操には明白であった。
(考えることをしない無能は我が軍にはいらぬ。)
王垢に人としての見切りをつけた曹操は、彼を悪人に仕立て上げ、兵たちの不平不満を自分から逸らすことにしたのである。
陣中に曝されている王垢の首に添えられるように立札が置いてある。
立札には、
王垢、兵糧を盗み、小升を用いて私腹を肥やす。
罪状歴然。軍法によって此処に正す。
と、書いてあった。
「何てやろうだ!このクズ野郎!腹が減っては戦は出来ぬという言葉を知らねえのか!!」
兵たちの不満は、亡き王垢の首に向けられ、曹操に抱いていた不平はすっかり無くなってしまった。
そして、曹操はその転機を逃さない。
彼は即日の内に大号令を発した。
「よいか!今夜から三日の内に城を攻め落とす!怠る者は打ち首だ!」
優しいだけで王にはなれない。
非情になりきれる信念が王には必要なのだ。
曹操は、非情の覚悟で寿春城に攻め入るのであった。




