三百四十六.自分で考えること
曹操は孫策へ兵糧を乞うたわけであるが、その道は遠い。
「今すぐに食糧プリーズ!」と言って宅配ピザのようにすぐに手元に届くわけではなかった。
その間にも兵糧は数を減らしていき、糧米総官である王垢が悲鳴を上げ始めていた。
「――――曹操様、いよいよ食料がピンチであります。」
「・・・元気のない喋り方をするな。こちらまで気が重くなる。」
「申し訳ございませぬ。・・・して、如何致しましょうか?」
「・・・逆に問おう。お前の任務は一体何だ?」
「それは・・・」
「敵地で食糧を調達するのが糧米総官の役目であろう?」
「左様でございますが、今はご覧の有様。農家までが泥に埋まり、一粒の米を見つけるのも至極困難。それが三十万人の食糧となりますと・・・」
叱責を恐れ、伏せ目になっている王垢の態度に曹操の腹が立った。
(弱い人間は嫌いではない。しかし、逃げる人間を私は許さん。)
曹操は逆境を愛する人間である。
『辛い時こそ人間の本気が見え、そして隠れた才能が芽生えるモノ。』
それが彼の持論であり、彼が部下たちにそうあって欲しいと唱えていたことでもあった。
(それで失敗しても私は許す!しかし、それすら出来ぬ人間を私は必要とせぬ!)
王垢の逃げる姿勢に曹操は喝を飛ばす。
「否!言い訳は聞かぬ!相談も聞けぬ!考えるのだ、必死に!自分の力で必死にだ!」
「ですが・・・」
「構わん!考えろ!自分の考えを述べてみろ!!」
「・・・・・・・」
「むぅ!? ここまで言ってもお前は考えぬのか!・・・もう良い!ならば一言を与えてやる!升を変えろ!小升を使うのだ小升を!兵に配る兵糧を変えればだいぶ違おう!!」
「・・・たしかにその通りにございます。」
「ならばそう致せ!時は待ってはくれぬぞ!!」
「はっ!」
曹操からの投げやりなアドバイスを受けた王垢は、それについて深く考えず、アドバイス通りに、兵に配る兵糧を減らしたのであった。




