三十一.敵を知ること
「???なんだ?何かアホみたいな幼稚な歌が聞こえるが何事であるか?」
突然幼稚な歌が聞こえ始めたので、黄巾賊の大将軍 張宝は部下に尋ねた。
「大変です!後方で斬り合いが発生しております!」
「何っ!!何が起きているのだ!」
「詳しいことはわかりません!しかし、背後では裏切り者が出たとの声が上がっております!」
「裏切り者だと!!・・・まさか、この奇妙な歌・・・敵の妖術攻撃か?」
張宝は劉備軍の魔除けの歌を妖術攻撃と勘違いしてしまった。
妖術の恐ろしさは利用していた自分が良くわかっている。
張宝は部下を引き連れて、妖術攻撃を打ち破るべく陣の後方へと赴いた。
(まさか敵が妖術を会得している者とは・・・油断しておったわ!)
張宝は後方に着き、現状を把握しようとした時、茂みから一本の矢が飛んできた。
「うっ!」
矢は張宝の大事な部分に突き刺さった。
想像を絶する痛みと事態が把握できずに張宝は叫び声を上げる。
「なんじゃこりゃぁあ!!!」
叫ぶ張宝に再度矢が飛んでいく。
今度は胸に突き刺さり、張宝は血を吐いて馬から落下した。
「今こそ好機!全員かかれ!!」
茂みに隠れていた劉備軍は劉備の掛け声とともに姿を現し、張宝の部下たちに突撃していった。
「うわーー!」
「なんてこったい!」
「もうダメだ・・・おしまいだぁ!!」
大将が倒され、敵に攻められ、不気味な歌が聞こえる。
先日の戦いとは逆に張宝軍が妖術にかかったように劉備軍を恐れ戦いてしまった。
逃げ惑う張宝軍の姿を見て劉備は勝利を確信し、部下たちにもっと混乱させるように指示を出し、自身は倒れている張宝に近づいた。
「身なりから察するに、張宝将軍とお見受けいたすが如何かな?」
賊に成り果ててしまったとはいえ、元は腐りきった漢王朝打倒のために立ち上げた組織の将軍である。
劉備はそれなりの敬意をもって張宝に話しかけた。
「・・・そうだ。・・・貴様がこの官軍の大将か?」
張宝は口から血を垂らしながら、劉備に問いかけた。
「左様。もっとも官軍ではなく、義勇軍の大将ですがね。このようなことになったこと・・・誠残念でならない。」
「甘い・・・甘いな。敵に同情するなど甘すぎる。」
「そうかもしれませんな。」
「・・・甘い男に殺されるとはな。・・・最後に言いたいことがある。」
「何でしょうか?」
「・・・『敵』は俺たちじゃない。それだけは言っておきたい。」
「わかっています。」
「そうか。なら良い。・・・無念。」
張宝はそう言って死んだ。
特に表情を変えることなく瞼を閉じて、永遠の眠りについた。
これが張角の弟、張宝の最期であった。
張宝の死を見届けた後、劉備は勝ち名乗りを上げた。
「地公将軍 張宝!この劉玄徳が打ち取ったり!」




