三百六.日頃の行いは大事
宋憲の「張飛が馬を盗みました!」という話は作り話ではなく事実であった。
では、何故張飛は呂布に喧嘩を売るという短絡的思考を行動に移したのか?
その理由が、今、彼の口から放たれようとしていた。
「――――しみったれ奴!ケチンボ・・・いや、ケチ〇ポ野郎!三百ばかりの軍馬が何だ!!」
「確かに俺が盗んだ!ああ、盗みましたとも!しかし、俺を指さして盗賊とは聞き捨てならん!!」
「俺が『盗賊』なら、貴様は『糞賊』だ!!」
張飛の暴言に呂布はまごついた。
前話の宋憲のセリフの中でも少し出て来たが、世には様々な『賊』がある。
しかし、『糞賊』という賊は聞いたこともない。
それもそのはず。
『糞賊』は、張飛の考えたオリジナル賊であるのだから。
「自分が何者か分かってないのか?・・・ならば教えてやる!貴様は元来、流浪の身!寄る辺なく、荒野を彷徨う野良犬であった!しかしその後、兄貴の慈悲により家を与えられ、徐州に住むことになった寄生獣!その寄生獣が反旗を翻し、徐州の太守の真似ごとをしているのが、『呂布』、貴様だ!!」
「貴様は太守面をして国税を横領し、娘の嫁入り支度といっては民の膏血を搾り取っている!!」
「この天下多難の時に、眷属そろって能もなく、吠えて糞を撒き散らす狂狼!!」
「そんな貴様如きを『国賊』というのももったいない!」
「『糞賊』!貴様は世に害悪を撒き散らす『糞賊』だ!」
「俺は糞賊から自分たちのモノを取り返しただけ!正義の行いだ!」
「わかったか!呂布!!」
張飛の雑言が終わるかどうかの刹那。
呂布は地上最強の生物に負けぬほどに髪を逆立て、大戟を振りかぶるや否や、
「この下郎ッ!!」
と、凄まじい怒りを見せて打ってかかってきた。
「来い!呂布!貴様の引導!今日ここで俺が渡してやる!!」
張飛もまた、馬に跨り得物を構えると、怒声を放ちながら呂布に向かい打って出たのであった。




