三百五.知らないモノは知らない
「劉備!きさん、こらっ!どういうつもりや!いてまうど!おおんっ!ああん!おらあっ!黙っちょったらわからんやろが!出て来いや!この糞ボケカスがッ!」
城外からの罵声を聞いて劉備は驚いた。
(ええ・・・何が起きたのだ?)
理由がわからない。
朝起きてメシを食って仕事してトイレ行って昼食をとって昼寝して仕事して三時のおやつを食べて片づけして今日一日を終えようとしたその時に訪れた凶事。
理由はわからないが防がずにはいられない。
劉備は軍備を整えると、兵を連れて城外へ進み出た。
「呂布将軍!兵など連れて何事ですかな!理由なく兵を動かすは、奇々怪々な変人的行動だと思われますが!!」
彼の大声に呂布は、
「ほざくな!劉備!白々しいぞ!自分の胸に手を当てて考えて見よ!!」
と、怒れる形相を見せつけた。
「この恩知らずが!先日、袁術からの危機を救ってやったというのに、その恩を忘れて俺を裏切るなど犬畜生にも劣る行為だ!!」
酷い侮辱である。
劉備は顔をしかめたが、深呼吸して心を落ち着かせ、呂布に詳細を求めた。
「??? 将軍!何を言っているのか分かりません!詳細プリーズ!!」
「まだしらばっくれるのか!お前は張飛に俺の軍馬を盗ませたではないか!!」
「えっ!? 嘘ぉ!? その話、マジですか!!」
「マジだ!マジ!後ろの虎髭男に聞いてみろ!!」
呂布の返答に、劉備は後ろに控えていた張飛に尋ねてみた。
「・・・張飛。呂布の軍馬を盗んだという話・・・本当か?」
「・・・YES。」
「馬鹿野郎!!」
張飛の答えを聞いて、劉備は彼を怒ると同時に頭を抱えた。
(ああーーー!しまったーーーー!油断したーーーー!読み間違えたーーーー!!)
張飛が呂布を深く憎んでいるということは、劉備も重々と認識していた。
しかし、その度合いを読み間違えていたのだ。
(いくら短気の張飛でも、私の許可なく呂布に対して勝手な行動はとらないだろう。)
徐州略奪の件で反省した張飛を劉備は信じていたのだ。
しかし、張飛は呂布に対して行動を起こした。
軍馬を盗むという盗賊まがいの行動を起こし、呂布に喧嘩を売ったのである。
張飛の呂布を憎む気持ちは、深海一万メートルよりも深く、噴火するマグマの如く煮えたぎっていたのであった。
(ああーーー!もおーーーー!張飛ーーーー!・・・・・・・はぁ。)
呆れる劉備であったが、彼は「馬鹿野郎!!」の一言以外で張飛を責めなかった。
それは劉備自身も呂布に対して思うところがあったからである。
劉備はうな垂れながら、手で張飛を促して、彼を自分の前へ立たせたのであった。




