二十九.出来ないことに挑戦しよう
張宝の妖術に完敗した劉備たちは作戦を考えていた。
「ここまで見事にしてやられたのは青洲での初戦以来であるな。」
「そうだな。しかし、あの時は戦って敗れたが今回は違うぜ。今回はろくに戦いもせずに負けちまった。・・・妖術も馬鹿には出来ないもんだ。」
関羽と張飛は先の戦いを振り返り、妖術に対する考えを改めていた。
関羽と張飛が悩んでいると劉備が自分の考えを述べた。
「鉄門峡での出来事は妖術のせいではない。地形が原因だ。」
「???どういうことですかな?」
「張宝の妖術など関係なく、鉄門峡の地には常に霧が発生しているのだ。そして、なんやかんやで鉄門峡から此方に対して風が猛烈に吹いているだけのこと。それを利用して張宝は『妖術だ!妖術であるぞ!』とほざいているだけだ。」
「なるほど。自然に発生している現象をさも妖術であるかのように見せているだけと、そういうことですかな?」
「うむ。敵もなかなかやりおるな。地形を利用するのは戦の基本中の基本であり、奥義でもあるからな。」
劉備の言う通り、戦いにおける環境利用は奥義である。
後に登場する稀代の天才軍師と謳われる『あの男』も戦いにおける環境の重要性を説いている。
「とはいえどうしたものか・・・このままでは戦にならんな。」
妖術がペテンであることがわかったが、劉備は良い策が思いつかずにいた。
悩む劉備に意外な人物が策を提案した。
「劉備の兄貴。確かにこのままだと鉄門峡を突破するのは難しいのは俺でもわかる。だったら別の所から攻めればいいんじゃないか?」
劉備に策を授けようとしたのは張飛であった。
「確かにそうだが・・・どこから攻めるつもりだ?ここには他に奴らの陣に続く道が無いぞ。」
「整った道なんて必要ないぜ。あの崖を登るんだよ。登ってしまえば鉄門峡を通ることなく奴らに奇襲を仕掛けることが出来るぜ。」
張飛は断崖絶壁を指さしながら策を提案した。
崖を利用した奇襲作戦は日本だと『一ノ谷の戦い』が有名である。
もっとも、一ノ谷の戦いの奇襲作戦は断崖絶壁を駆け下りるというものであるが、張飛の策は逆に断崖絶壁を登る作戦であった。
「しかし、あの崖を登ることなんて出来るかな?」
「登れそうに無い所を登るからいいんじゃないか。でないと奇襲なんて仕掛けられないぜ。」
張飛は至極真っ当なことを劉備に説いた。
張飛は猪武者であり、考えることが嫌いなタイプであったが、実は意外と切れ者だった。
「確かに張飛の言う通りだな。よし!ではあの崖を登るとしよう!」
劉備はすぐに準備と整え、崖登りを開始したのであった。




