二百七十.逃げることも大切
袁術の外交戦略により劉備軍は前後より敵に攻められる形となっていた。
前面には袁術軍十万(大将:『紀霊』)
後面には呂布軍三万(大将:『高順』)
呂布が袁術と手を組んだとの報は劉備の元にもすぐに届いていた。
「なにっ!? 呂布軍が三万の兵を連れて此方に向かってきていると!!」
「左様です。高順を大将とした正真正銘、間違いなく、疑いようのなく、真実、本当の偽物ではない呂布軍です。」
「むむむ。・・・どうしたものか?」
劉備はすぐに会議を開き、幕僚たちに謀った。
「「決戦あるのみ!紀霊、高順!両名ともに血祭りブシャーだ!!」」
口を揃えて勇ましい声を上げたのは関羽と張飛の二名であった。
乾坤一擲(=一か八かの大勝負)。
悲壮な彼らの提案であったが、劉備はその意見を不可とした。
「いやいや、待て待て、おちつけ、冷静になれ。ここは血気に逸るべきではない。いくらなんでも無謀すぎる。」
「前面には袁術軍十万。後面には呂布軍三万。」
「こんな大軍を相手に戦いを挑めば滅亡不可避。自滅の道を自ら進む必要はあるまい。」
正論であるが納得のいかない張飛は劉備に問いかける。
「・・・ではどうするのです?」
「逃げる。逃げて再起を計る。それ以外に道はない。」
「しかし、それはあまりにもくやしゅうございます。」
「分かっている。お前の言いたいこともよく分かる。しかし、どうにもならないものはどうにもならない。・・・張飛よ。分かってくれ。」
「・・・はい。」
「よし。それと・・・張飛だけではない。皆も分かってほしい。敵に背を向けるのは悔しいが、命あればまたこの悔しさを晴らす日もやってくる。それまでは耐えるのだ。」
『兵たちの命を預かる者として、一か八かの乾坤一擲は出来ない。』
劉備の主張に、関羽と張飛、その他の幕将たちは、
((殿に戦う意思がないならどうしようもない。))
と、逃げる意思に賛同するほかないのであった。




