二百四十.生きてる者が人間である
楊奉と韓暹が消えた!
宮廷は驚き、2人の所在を探すと、2人は逃げた賊を討伐するために大梁方面へと向かったということが分かった。
「曹操に意見を仰ぐとしよう。」
帝は一人の侍臣(=君主のそばに仕える家来)を勅使として曹操の元へと派遣することにした。
「勅使が参られるだと?これはいかん。丁重にお迎えせねば。」
曹操はすぐに支度を行い、礼を持って勅使を陣へと迎え入れた。
そして、ふと勅使の顔を見た瞬間、彼に雷撃の如き衝撃が走った。
(むっ!?この男・・・できる!!)
曹操は久しぶりに家臣の者以外で『人間』を見たような気がした。
洛陽という地に着いてから、彼は多くの人間と面会した。
彼らを見た曹操は、彼らを『人間』ではなく、『モノ』だと思った。
(精も根もなく、ただ生きるだけの人間の何とつまらぬものか。)
彼らに会うたびに曹操は思った。
死んだ魚のような目。
仄白い耳。
紫色の唇。
砂漠の肌。
これが今の人間の顔であった。
曹操はこれを世相のせいにしたくなかった。
(・・・少なくとも私は違う。私の部下も違う。私と彼らは『人間』である。)
曹操は皆が自分と同じことが出来るとは思ってなかった。
その逆に自分が皆と同じことが出来るとも思ってなかった。
自分にしか出来ない事。
自分には出来ない事。
それを知り、それを補うために彼は『人間』を欲した。
(私は万能な神ではない。私はただの人間である。だから私には私以外の人間が必要なのだ。)
稀代の人材マニアである曹操は目の前に現れた勅使に興味が湧いた。
楊奉と韓暹が逃げた話など彼にとってはどうでも良かった。
今、彼が大事だと感じたのは目の前にいる『人間』であった。
曹操は帝の勅使である『董昭』と会話を始めるのであった。




