二百二十三.人生は迷路である
領地を失えば人は去って行くのは当然のこと。
荒野をさまよう呂布に従う兵の数は次々と減っていた。
しかし、その方が彼にとってはありがたかった。
兵を養うには食糧が必要である。
食糧がなくなれば全滅は必至。
彼に見切りをつけた兵たちが自ら軍を離脱していくのは、兵糧の面よりプラスであった。
「・・・とはいえ、このまま野をさまよっているのはいかんな。」
陳宮に相談する呂布。
「・・・陳宮よ。こうなれば冀州にいる袁紹に頼ってみるのは如何か?」
この呂布の提案に陳宮は首を傾げ、すぐには賛成しなかった。
というのも、彼の評判は各地において芳しくないのを陳宮は知っていたからだ。
・義父の丁原殺し
・恩ある董卓殺し
・兗州強奪
etc・・・
「悪い噂しかない彼を受け入れるところなどあるのだろうか?」と言うのが陳宮の本音であった。
とはいえ、これ以上無駄に荒野をさまよっているわけにもいかないので、陳宮は呂布の提案に賛同することにした。
いきなり他家の元に訪れるのは、乱世においては危険極まりない。
そこで陳宮は、先に冀州に人を派遣して、袁紹の心を探ることにした。
伝え聞いた袁紹は審配という策士に意見を求めた。
「呂布が私を頼って来ているようだがどう」
「NOです。絶対NOです。拒否すべきです。」
「・・・即答だな。」
「呂布のこれまでの行いを顧みれば当然のことにございます。彼を助長し、兗州を取り返させた後、次に彼がこの冀州を狙って来ないとは限りません。・・・むしろ、曹操と手を組んで呂布を殲滅した方が今後のためにも良いかと思われます。」
「ふむぅ・・・一理あるな。確かにその方が今後のためにも良いかもしれん。・・・よし!呂布を殲滅するぞ!!」
袁紹は審配の意見に賛同し、部下の顔良に五万の兵を与え、曹操と共に呂布を討つことに決めたのであった。
呂布は狼狽えた。
人間落ち目になるとこんなモノである。
誰も手を差し伸べない。
クモの糸など垂らさない。
むしろ徹底的に追い詰める。
世の中とはこんなモノである。
いよいよ呂布は行く当てがなくなった。
逆境の流軍は荒野をさまよった。
歩けど歩けど道は無し。
足取り重く歩いていると、家臣の一人がとある言葉を口にした。
「・・・将軍。徐州の劉備玄徳に頼って見ては如何でしょうか?」
「徐州の劉備だと?」
「左様です。劉備は近頃、陶謙の後を継いで徐州の太守になったそうです。人徳ある人物となかなかの評判ですぞ。」
「ふむぅ・・・劉備か・・・よし。では使いの者を立ててみよ。」
「御意!」
こうして呂布は一縷の望みをかけて、徐州にいる劉備に使いを出したのであった。




