二百十一.現実は厳しい
虎口を脱した曹操が東へ東へと馬を走らせていると、彼の臣下である典韋に出会った。
そして、悪来に護られながら歩を進めると、やがて、城外へと通じる門へと到着した。
しかし、・・・
「・・・これでは逃げられんな。」
城門を見た曹操は愕然とした。
その城門は炎に包まれていたのだ。
城壁の上に置かれていた多くの薪や柴にも火が移り、城門一面火の海嵐であった。
まさに地獄の門。
地獄の門を見て絶望しない者はいないであろう。
曹操は絶望的な声で、
「・・・悪来よ。これは引き返すしかあるまい。」
と、彼らしからぬ、情けないセリフを典韋に向けて吐きだした。
すると典韋は、
「いえ、引き返す道はありません。引き返せば確実な『死』が我らを待っています。しかし、この門の先では『生』が我らを待っております。『生』に抱き付き、ペロペロするためにも、この門を進むべきです。」
「私が先に駆け抜けますので、後に次いでお進みください。」
と、門を駆け抜ける姿勢を示した。
典韋の言葉に曹操は一瞬ためらいを見せたが、彼は決意した。
(進めば地獄。戻っても地獄。・・・しかし、悪来の言うように『生』があるのは進む先のみ。・・・ええい、ままよ!)
一か八かの大勝負。
覚悟を決めた人間は強いモノ。
曹操は気合十分、典韋に先導させ、地獄の門へと馬を走らせることにした。
典韋の馬は疾風の如く駆け抜け、地獄の門を無事に突破した。
そして、その後に曹操は続いた。
火の粉がパチパチという音を立て、彼の頭上に降り注ぐ。
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
曹操は雄叫びを上げた。
熱気で喉が焼けそうになる。
耳も眉も髪の毛もチンも全てが焼けただれるような熱気に包まれながらも、曹操は声を出して叫び続けた。
生きるために死に抗う。
覇王 曹孟徳のかっこよさが爆発していた。
(もう少し!あと少しだ!ほらそこに!ゴールは近づいてる!求めている『生』がそこにある!!)
あと数歩馬を走らせれば門を抜けられる。
曹操の気合が絶望を吹き飛ばした!・・・かに思われたが・・・残念!現実は非常である!!
かっこいいキャラクターがかっこよく物事をこなすなどゲームや漫画の話だけである。
現実は厳しいのだ。
城門を駆け抜けようとした刹那、城門の一角が彼の頭上に焼け落ちて来た。
「あっ!?」
火に包まれた無数の巨大な梁が落下して、曹操に襲いかかる。
乗っていた馬が梁に潰され、曹操は地に叩きつけられた。
そして、落馬した彼に向かい巨大な梁が転がり迫る。
「むぎゅ!!」
曹操は転がってきた火の梁に押され、全身に火傷を負い、焔に囲まれて気を失ってしまったのであった。




