二百六.上り坂を下らない
典韋の活躍により曹操は窮地を脱した。
山を越え、麓にたどり着いた曹操一行は、夏候惇率いる一隊に出会い、彼らと共に本軍へと合流した。
「なんというありさまだ・・・兵の半数を失うとは・・・不覚!圧倒的不覚!呂布軍許すまじ!!」
味方の手負い兵および討死にした兵を合わすと、その数は全軍の半分以上にのぼった。
惨憺たる敗戦である。
この大敗にて曹操の命が助かったのは奇跡と言えるだろう。
やはり持っている男は持っているモノである。
ちなみに典韋は、この日の功績を称えられ、領軍都尉に昇級したのであった。
――濮陽城にて。
曹操の奇襲作戦を破って以降、呂布軍の士気は増々高まっていた。
そんな折、上りに上る士気を下がらすまいと、策士の陳宮は、次なる一手を打とうとしていた。
「将軍はこの土地に、『田氏』という旧家があるのをご存知でしょうか?」
「田氏? あの有名な富豪の田氏のことか?」
「左様です。その田氏をこの城にお召出し下さいませ。」
「軍資金でも出させるのか?」
「いえいえ、そんな自分の首を絞めるような、みみっちいまねは致しませぬ。・・・まぁ、いずれは奪い取りますが。」
「では、田氏を呼び出して何をするのだ?」
呂布は陳宮を信頼していた。
・兗州への侵攻提案。
・濮陽城の隙を見抜く眼力。
自分にはない智謀を持っている彼を重んじていた。
そんな彼の策略がまた発揮されるのであろうと、呂布は彼に敬意を払って問いかけた。
そして、この問いに対する彼の答えはこうである。
「曹操の命を取るのです。」




