百八十九.悪い誘いには乗らないこと
夜中になっても雨は続いた。
天上から降る雨は、放たれた矢の如く、勢いよく大地に降り注ぎ、大地を水で潤した。
しかし、潤う大地とは裏腹に、彼らの心は乾ききっていた。
「つまんねぇ~!超つまんねぇ~!ジジイの護衛!つまんねぇ!」
「薄給!激務!サビ残!やりがい無し!社畜生活オンパレーーード!!」
「こんな生活でよかろうか?・・・いやいやいやいや、よくなかばい!!」
張闓の部下たちは、本堂にて、昼間以上の不満顔で互いに愚痴をこぼし合っていた。
「昔の生活の方が楽しかったよな?」
「そうだな~あのころは自由気ままでストレスフリーな生活だったしな。」
「それが何の因果でこんな目に・・・はぁ。」
酒を飲み、空になった杯を床に打ちつけ、過去の生活を思い返していると、そこに1人の男が現れた。
その男は彼らの上司である張闓であった。
「話は聞かせてもらった!このままでは我々は滅亡する!鬱になって人生終了だ!!」
張闓は彼らに向かい、開口一番、そう叫んだ。
いきなりの上司の登場に驚く彼らに、張闓は話を続ける。
「お前たちの不満も尤もだ。俺たちは、元々は黄巾賊の仲間にいて、自由気ままな生活をしていたんだからな。」
「しかし、陶謙のゴマすり野郎に討伐されて、やむなく奴に仕えることになったが・・・つまらん。仕官というのはホンマにつまらん。奴隷生活もいいところだ。」
「そこでお前らに提案があるのだが・・・どうだ、もう一度、以前のように黄色い布を頭につけて自由に暴れてみないか?」
張闓の提案に兵の1人が「今さら無理でしょ。手遅れですよ。」と反論すると、張闓はニヤリと笑ってその反論を一蹴した。
「なぁに、金だ・・・要は金さえあればいいのだ。」
「その金が目の前にある。あの老いぼれジジイの金を横取りすればいいのだ。」
「あの金を手に入れることが出来れば・・・俺らは自由だ。繋がれざる者となって、また自由な生活が出来るようになるぞ。」
この張闓の扇動に兵たちも乗り気になり、不満顔より一変して希望にあふれた顔になったのであった。




