十八.我儘にはつき合わせないこと
劉備が盧植のもとを訪れて2ヶ月が経過したが、広宗の黄巾賊との戦は決着がつかなかった。
黄巾賊の正規軍は強く、官軍の3倍の15万という兵力。また、この地はけわしく、守りに徹している黄巾賊の方が有利であるため、官軍は攻めきれずにいた。
「あいつらメッタメタのギッタギタにしてやろうか。」
張飛は怒っていた。怒っている矛先は黄巾賊ではなく味方の官軍に対してだった。
官軍はやる気がなかった。彼らは戦に集中しておらず、故郷にいる家族の事や食事や酒の事ばかり考えていた。
「そう怒るな張飛。彼らとて同じ志を抱く人間なのだ。」
「しかし兄者。官軍の連中はいくらなんでも腑抜けすぎます。このままでは我ら劉備軍の士気に影響しますぞ。ここを立ち去るべきでは?」
「お前たちの考えもわかる。だがここを立ち去るわけにはいかない。まだ盧植先生への恩を返していないのだから・・・。」
劉備はやる気の無い官軍の兵を見ながら何とも言えない悲しい表情を浮かべた。
『恩師に恩を返すため』。聞こえはいいがそれは劉備の我儘であった。
そのために、無関係の劉備軍の兵がつき合わされているのだ。
それを気にして劉備は1人悲しげな表情を浮かべていた。
そこへ1人の兵がやってきた。
「劉備殿。盧植様がお呼びです。来て頂けますか?」
「盧植先生がですか?・・・わかりました。いきましょう。」
劉備は盧植のもとへと向かった。
「お主たちに頼みがあるのだ。」
「なんでしょうか?」
「ここから南に行ったところに潁川という地がある。ここで今、張角の弟である張宝と張梁の2枚看板が暴れ回っている。奴らに対して皇甫嵩将軍と朱儁将軍の2名が黄巾賊と戦っているのだが、決着がつかないとのこと。そこで、こちらの援軍に行ってくれぬか?」
「潁川にですか・・・。」
「うむ。ここでいたずらに時を過ごすよりも、潁川の黄巾賊を蹴散らしてくれた方が我が軍にとっても助かる。潁川の黄巾賊を倒せば広宗の黄巾賊は逃げ場を失うことになるため、奴らは自然と瓦解するだろう。」
「・・・わかりました。潁川に行きましょう。」
「すまん。ではよろしく頼むぞ。」
劉備は盧植の提案を受けた。
直接ではないにしろ、間接的に恩を返せるならそれでも良いだろうと劉備は妥協することにしたのだ。
劉備軍は兵を纏めて潁川へと向かった。
この劉備の決断が良いか悪いか。
それは潁川での戦いが終わった後にわかることであった。




