百五十一.自分にしか出来ないこともある
義理であるが愛娘の泣いている姿を見て、王允は心配して声をかけた。
「貂蝉・・・なぜこんな所で泣いておる?何か辛いことがあったか?」
「はい。私は・・・私は辛うございます。先ほどより庭にて御館様が思い悩んでいる姿を見るのが辛うございます。・・・御館様・・・何かお悩みがおありなら仰って下さい。この貂蝉に出来ることなら何でも致します。」
「・・・な、悩みなどないぞ。お前の取り越し苦労じゃ。」
王允は貂蝉に心配かけないと嘘をついたが、賢しい貂蝉はすぐにそれが嘘だと見抜いた。
「いいえ、取り越し苦労などではありません。御館様は近頃、髪が一層白く薄くなり、頭に白と黒の見事なコントラストを描き始めております。」
「それに、以前は丸々と太った豚の様なお姿だったのに、今は痩せて身が細くなり、まるでミイラの様な姿になっております。」
「以上の醜態より、御館様の身に何かあったと推測できます。」
「御館様・・・この貂蝉、赤子の時より大切に育てて頂き、御館様には大変に恩を感じております。」
「私はこの大恩に報いたいと思っておりますが、私はいまだにその恩に報いることが出来ておりません。」
「御館様・・・一体何をお悩みなのですか?この貂蝉にお話し下さい。お願いします。」
貂蝉は瞳を涙でウルウルとさせ、王允に悩みを打ち明けて欲しいと懇願した。
「貂蝉には話さない。」と心に決めていた王允であったが、愛娘のいじらしい姿に心打たれ、彼は悩みを打ち明けることにしたのであった。
「そうか・・・そんな風に見られていたのか・・・。貂蝉よ。心配かけてすまぬ。」
「やはり何か悩みがおありなのですね。・・・御館様、話して下さいまし。」
「うむ。実はのう・・・漢王朝の行く末について悩んでおったのだ。」
「漢王朝の行く末ですか?」
「そうじゃ。お前も知っての通り、今の漢王朝を動かしておるのは天子ではなく董卓である。このままではいずれ董卓が天子の座を奪ってしまう。」
「・・・」
「董卓の奴を何とかしようにも、董卓の傍には知恵袋の李儒と天下無双の呂布がおる。奴らが傍におる限り手を出すことは不可能じゃ。それに奴らだけではなく、密偵も其処彼処におり、我らの動きに目を光らせておる。・・・もうわしには董卓を止めることは出来ぬ。それを思うと悲しゅうなってのう・・・。」
王允の悩みを聞いた貂蝉は軽く俯いて状況の整理をした。
そして、自分に出来ることを必死に考えた。
恩ある王允に報いるため、賢しい彼女はありとあらゆる手を考えた。
そして、自分に出来る・・・いや、絶世の美女である彼女にしか出来ない策を彼女は思いついた。
「御館様・・・董卓と呂布を仲違いさせる策が一つあります。」
「なにっ!? 貂蝉!策があるというのか!!」
「はい。・・・ですが、その策を話す前に御館様に一つ確認しとうことがございます。」
「??? なんじゃ?」
「あの・・・その・・・自意識過剰に思われるかもしれませんが・・・私は美人でしょうか?」
「???・・・美人じゃ。娘だから褒めておるのではない。わしは1人の男として断言する。お前は間違いなく絶世の美女じゃ。・・・それがどうかしたか?」
「・・・その言葉、嘘ではございませぬか?」
「ない!わしが保証する!!」
「わかりました。・・・それではお耳を貸して下さい。」
自分の容姿を確認した貂蝉は王允に策を耳打ちした。
策を聞いた王允は月にぶっ飛ばんばかりに大変に驚いた。
「ちょ、貂蝉!お、お前まさか本当にそんなことを考えておるのか!!」
「はい。私にはこれぐらいのことしか出来ませぬ。」
「うっ!? ううむ・・・貂蝉・・・お前にそれを任せてよいのか?」
これから起こるであろう悲劇を想定し、王允は貂蝉に最終確認を取った。
王允の問いに対する貂蝉の答えはこうである。
「はい。私にお任せくださいませ。」




