十四.初陣
劉備と鄒靖将軍が率いる黄巾賊討伐軍御一行は大興山に到着した。
先陣は劉備軍で、初陣にもかかわらず百姓混じりの彼らは恐れることなく血気盛んだった。
その様子を山の麓の陣から見ていた黄巾賊たちは大笑いした。
「なんだあの百姓の集まりは。まるで乞食部隊ではないか。」
「大将の言う通りでやんす。官軍の奴ら人手不足でとうとう百姓の手も借り始めたようでやんすね。」
「そのようだな。・・・よし!野郎ども!乞食部隊を蹴散らすぞ!!」
「おう!!」
大興山侵攻部隊の大将『程遠志』と副将の『鄧茂』の2名を筆頭に黄巾賊は劉備軍を完全になめていた。
劉備軍をなめきる程遠志と鄧茂。ネタバレになるが彼らは三国志演義において永遠のかませ犬と呼ばれる2人であった。
一方劉備たちは、黄巾賊を相手にどう攻めるか話し合いをしていた。
「兄者。どう攻めますかな?」
「真正面から一気に叩き潰すとしよう。戦いを長引かせると敵の援軍がこの地に来てしまいこちらが不利になる。その前に決着をつけるべきだ。張飛はどう思う?」
「劉備の兄貴の言う通りだぜ。へへへ。腕が鳴るぜ。」
張飛は久々の実戦ともあり、肩をグルグルと回し、蛇矛(だぼう、じゃぼう)を手に持ち、気合十分の装いを見せた。
蛇矛とは長い柄と、柄の先にある刃が蛇のようにくねくねと曲がっている矛である。
この形状は殺傷力向上のためであり、相手を刺したときに傷口が広がるという特徴がある。
「拙者も兄者と同じ考えでござる。一気に叩き潰すとしましょう。」
そう言って関羽は自身の代名詞ともいうべき青龍偃月刀を構えた。青龍偃月刀は長い柄に幅広の湾曲した刃を取り付けたもので、重さは82斤(後漢の尺度で約18Kg)と言われている。
2人の様子を見た劉備は「頼もしい義弟たちだ。」と呟き、自軍の兵たちの前に立ち、腰に差していた帝王の剣を抜いた。そして大きく息を吸い込んだ。
「全軍突撃ーーー!!」
「「うおぉぉぉぉーーー!!」」
劉備の号令と共に500余りの兵が黄巾賊の陣に向かって突撃を開始した。
「おっ!乞食部隊が突撃してきたぞ!こちらも突撃じゃーーい!」
「「ヒャッハー!!」」
黄巾賊も劉備軍の動きに合わせ突撃を開始した。
突撃する2つの軍。そして2つの軍が荒野の中央で激突した。
戦いは殺し合いである。剣で斬られ、槍で叩かれた痛みの叫びが荒野に響き渡った。
「ぐわっ!!」
「うわぁ!!」
「ギャー!!」
「死ぬぅ!!」
「ぶべら!!」
「はべら!!」
「バタンキュー!!」
戦いは数が多く戦闘経験のある黄巾賊の方が有利かと思われた。
しかし、違った。同じ寄せ集めの軍でも劉備軍は強かった。
劉備軍は黄巾賊と違い、志が違った。性根が違った。大将が違った。
劉備は漢の皇帝の末裔。関羽と張飛は一騎当千の怪物。
そんな3名に付き従う兵士のやる気は黄巾賊とは天と地の差がある。
戦は劉備軍が完全に押していた。
そして、戦を終了させる出来事が起こった。
「俺の名は張飛翼徳!大将はどこだ!いざ尋常に勝負しやがれ!!」
張飛は勇猛果敢に敵をなぎ倒しながら、敵大将を挑発した。
ここで、安易に挑発に乗らなければ永遠のかませ犬と呼ばれることはなかっただろう。
しかし、彼らは安易に姿を見せてしまった。南無。
「我は大将の程遠志!」
「あっしは副将の鄧茂!」
「「いざ尋常に勝負!!」」
かませ犬全開で2人は張飛に向かい馬を走らせた。
「翼徳!お主は大将をやれ!わしは副将をやる!」
「おう!!」
張飛は程遠志を関羽は鄧茂と闘うことになった。
2つの殺し合いは一瞬で決着がついた。
張飛は女性の太ももはあろう腕に力を込めて蛇矛を一突き。程遠志の喉を貫き、この世から抹殺。
関羽ははち切れんばかりの腕で手にしている青龍偃月刀を鄧茂の頭上に振り下ろした。鄧茂は真っ二つになってしまった。
「ひぇーーー!!もうお終いだぁ!!」
大将を失った黄巾賊はスタコラサッサと我先に逃走を始めた。
劉備軍の後ろで見ていた鄒靖将軍は関羽と張飛の武力に驚きながら、全軍を率いて逃走する黄巾賊を追撃。投降する者以外を全て皆殺しにしたのであった。
劉備の初陣は完全勝利で幕を閉じた。




