十一.夢は大きく限りなく
桃園の誓いより4日が過ぎた。
約束の1週間が経過し、劉備たち3人は劉備の家の裏にある広場に来ていた。
「ずいぶんと大勢の人が集まったものだ。」
劉備は集まった数百人もの人数を見てこう呟いた。
義勇軍への参加者はどうやら周囲の街からも来ているらしく、先日の桃園に来ていた人数の数倍の人が集まっていた。
「それだけ兄者に魅力があるということです。臆することなく堂々と振舞われるがよいでしょう。」
「そうだぜ劉備の兄貴。大将はもっとこうドーンと構えていればいいんだぜ。」
張飛は両手腰に当て、大将の振舞いを体で表現した。
その姿を見て劉備は緊張がほぐれ、笑みがこぼれた。
そして、3人は集まってくれた義勇兵たちの前に立った。
「皆の者!集まって頂き感謝する!我らはこれより共に戦い、民のため国のために天下泰平の世を築き上げる!その夢を実現するため、お主たちの活躍に期待する!では関羽!劉備軍の五箇条を述べよ!」
「御意!劉備軍鉄壁の規則五ヵ条を述べる!一つ!将の命令は絶対! 一つ!自分よりも国と民たちを思うこと! 一つ!大志を抱くこと! 一つ!軍規を乱す者は死罪! 一つ!強盗略奪は打ち首獄門さらし首!」
「それでも構わん命知らずはついてこい!」
「「おおっ!!」」
「よしっ!では皆の者武器を手にして整列せよ!!」
劉備の命令に従い、義勇兵たちは準備しておいた武具を各々手にすると整列を始めた。
「兄者。いよいよですな。・・・兄者?」
劉備からの返事がなかったので、関羽は劉備の方を向くと、劉備は1つの桑の木を見ていた。
劉備はこの桑の木に思い出があった。
劉備は子供のころ、この桑の木に登ってこう言ったことがある。
「大きくなったら、天子の乗っている馬車に乗ってみせる!」
その様子を見た劉備の叔父は慌てて劉備の口を塞ぎ、「きさん(貴様)このガキャー!大それたこと抜かすんじゃねぇ!殺すぞ!」と叱責したが、1人の賢者はこう言った。
「あの子はいずれ貴人(お偉いさん)になるだろう。」
そんな過去を思い出して劉備はこう思った。
(あの叔父・・・今に見てろよ!私が天下を平和にしてみせる!)
劉備は昔を懐かしむと共に決意を新たにした。
「劉備の兄貴!準備が整ったぜ!」
「うむ!では行くとしよう!」
劉備は馬に乗り、劉備軍に号令をした。
「全軍前進!」
劉備の号令で劉備軍は村を出るために前進を始めた。
「頑張れよ!」
「乞食部隊!せいぜい頑張れよ!応援してるぞ!」
「劉備様!愛してるぅ!!」
その様子を村のみんなが見送ってくれた。その中に、劉備への資金提供者である張世平と蘇双の2人の姿が見えた。
「劉備殿!お金の返却はいつでも構いません!あなたは・・・あなたは立派に自分の道を進んでください!どうか太平の世を築いてください!」
劉備は張世平と蘇双の両名に深々と頭を下げた。
村の人々の見送り集団を抜けた先に1人の女性がいた。村の最後の見送り人は劉備の母であった。
劉備は母に頭を下げた。母も劉備に頭を下げた。2人の間に言葉は無く無言での会釈だった。
言葉などいらない、今までの暮らし、そして先日の母とのマル秘話だけで十分だった。
そして、劉備は見送る母の横を通り過ぎた。
(玄徳・・・しっかり頑張るのですよ。)
劉備は村を出る直前に乗っている馬を一旦止め、関羽と張飛の方を向いた。
「関羽。張飛。これからよろしく頼むぞ。」
劉備は義弟2人にそう言うと再び馬を歩かせた。
これから、長い・・・そう本当に長い劉備の戦いの人生の幕開けであった。
第一章 完




