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翌日、マスターの体重は6kgになっていた。当の本人は笑ったという。その次の日も、また次の日も、体重は6kgを保ったままであった。
そして6kgの状態になってから4日目。彼はいつも通り、朝に薬を飲んでから、日中はデイトレードをし、7時に店のシャッターを上げる。
だが今日は珍しく、先生はすぐには現れなかった。
テレビでも見ながら待っていると、10時半に先生は訪れた。
「こんばんは、マスター」
「先生、今日は珍しく遅いね。コーヒーでいいかい」
「ああ、頼むよ」
マスターはいつものようにカップにコーヒーをいれて、先生に出した。
「ありがとう、マスター」
「どうした先生、今日は少し元気がないな」
「ああ、そうかもね」
今日の先生はいつもより表情が強張っていた。
しばらくお互い黙っていたが、先生の方から口を開いた。
「・・・・なあ、マスター。あんたは太陽が光らなくなってしまうのは悲しいかね」
「何だいきなり。そりゃ、悲しいか悲しくないかで言えば、悲しいさ」
「私もだ。絶えず水素が核融合反応を起こし光り続ける太陽。私たちの為に常に光をくれる太陽。しかし、水素が無ければ光ることは出来ない」
やはり、今日の先生は何かが妙だった。
「太陽、そして宇宙は、全ては水素から始まったのだよ」
「水素がどうしたんだ」
「人間だって水素は必要不可欠さ。我々の体の10%が水素で出来ているからね」
「何かあったのか。話なら聞いてやるぞ」
「じゃあ、君の今朝の体重を当ててみようか」
「ああ、正確な体重ではないと思うが」
「6kgだろう」
「・・・・ああ、当たりだ」
「何で分かったのか不思議ではないのかい?」
「少し不思議だが、偶然だろう」
「それならば、君の体重の遍歴を答えてあげようか」
「・・・・いいだろう」
「60kg、59kg、58kg、20kg、18kg、6kg。6kgになったのは、ちょうど4日前だ」
先生の答えは全て当たっていた。
マスターも少し驚いた顔をしていた。