006
「ファム~。ジェイド先生の呼び出しは何だったの? 何か悪いことしたんじゃないの~」
教室の片隅で、シェリーが締りのない顔をする。
「やめなさいよ。ファムが困ってるじゃない」
「え~、でも姫月も気にならない? 教師と生徒の禁断の関係とかさ」
「禁断って……ギルメロイも呼ばれてたじゃない」
「だから三人でさ……イテ!」
姫月は剣の柄で、シェリーの頭を小突いた。
「馬鹿なこと言わないの。ファムもこんな馬鹿は無視していいからね」
ファムは、もじもじと体をくねらせ、その視線を、机と姫月の間で往復させていた。どうも言うべきか悩んでいるように見える。
「ほら、吐くんだ。ファム。吐いちまえば楽になるぜ」
シェリーは机を両手で何度も叩いて催促した。姫月がそれを止めようとしたとき、ファムがようやく口を開いた。
「……盗まれたそうです」
「盗まれたって何が?」
「わかったわ、姫月。ジェイド先生はこう言ったの『僕のハートは君に盗まれてしまった。その体で罪を償ってもらおうか』ってね、キャー」
「え……? ちがっ……」
ファムは目を丸くして慌てている。
「もう。シェリーはほっといていいから。続きをお願い」
「あ、あの……。ジェイド先生が管理してる……保健室の薬品棚……そこにあった……び」
ファムは顔を真っ赤にして、ふさぎ込んだ。
「まずいわ姫月。ビから始まる、いかがわしい名詞が思いつかない。副詞だったらビンビンとか、ビクンビクンとか色々あるのに!」
相変わらず、くだらないことを言うシェリーを姫月は手で遮った。二人の温度差にファムは、むしろシェリーが可哀想になった。それでいて、冷たくあしらっても維持できる関係というのを羨ましく思う。
「び……媚薬が無くなったとか……」
「ビヤクって……あれよね。惚れ薬のことよね!」
シェリーが食いついた。前に乗り出し、ファムに顔を近づける。
「そ……そうみたいです」
「へぇ~……」
シェリーが、すごく悪い顔をしていた。完全に何かを企んでいる……もとい邪な妄想を駆り立てている顔だった。
「でも、何でファムとギルメロイが呼ばれたの?」
姫月はそこが気になった。
「……それは……盗まれたのが……実技の授業中だったみたいで……その時間に保健室を利用した人が怪しいって……」
「え~、何それ。ジェイド先生もいい加減だね。しっかり保管してない方が悪いじゃん」
「で……。うちのクラス以外では、ニコル君とマチルダさんが呼ばれてました……」
「うっわ……すごい濃い面子ね」
「二人はなんで?」
姫月が尋ねる。
「ニコル君は……授業中、胃が痛くなって授業を抜けたみたいです。マチルダさんは……よくわかりません……」
「犯人は、マチルダね。間違いないわ。この名探偵シェリーの目は誤魔化せない」
なぜかポーズを決め、目を見開く。ファムは慌ててそれを否定する。
「あ……でも、シェリーさん。保健室の近くに……来ませんでしたか?」
「え? 私? 授業中のこと? 全然行ってないけど」
「私の見間違いでしょうか……教室への帰り道にシェリーさんらしき人を見た気が………丁度、鐘がなった位の時間だったのでおかしいなぁと……」
「ん? あれ?」
シェリーは頭を捻って、記憶の糸を手繰っていた。何か心当たりがありそうにも見える。
「もしかしたら、私だったかもしれないわね」
「何言ってるのよ。授業終わった後、ずっと私と一緒にいたでしょうが」
姫月の言葉に「あれ? そうだっけ? あははは」と頭を掻きつつ笑って済ました。
「やっぱり……気のせいでしょうか……」
「気のせい、気のせい!」
「ほんと、シェリーはいい加減なんだから」
媚薬が無くなったというのは、危険なことのようにも思えたが、所詮は単なる悪戯レベルの窃盗事件。自分とは関係のない出来事のようで、それほど興味をそそられることは無かった。いずれ犯人は捕まり、謹慎なり、マリア先生の拷問部屋行きなり、それなりの処罰が下されて丸く収まる。そんな気がしていた。




