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人はよわしもの

 また僕は原因不明の瞬間移動していた。ハカセたちからの連絡はない。


 多分、僕の目の前にあるのは佐和山の本丸だ。本丸はやがて放火され中の人は焼け死ぬ。いや、それを願っていた。

 あそこにいる人たちは知らないんだ。炎に焼かれる辛さを。

 誰でもいい。僕は本丸に駆け込んだ。死ぬのは楽じゃないんだ。一人でも逃がすんだ。


「皆逃げて、逃げるんだ」


 本丸の地階にはアドレナリン爆発の侍が充満していた。彼らは僕を殺そうと迫る。


「馬鹿、こっち。ほら小早川の新手ですよ」

「鰯丸!」


 僕の腕を鰯丸が引っ張って退散。なんとか助けたい人たちから殺される悲劇は回避した。


「今、忍姫来た?」

「知りません、本丸正面でジッと立っていたわけじゃありませんから」


 逃げてきた人で充満していたけど、なんとか密度の低い場所まで鰯丸は僕を連行。


「まず」、咳払いして鰯丸は僕を平手打ち。

「よくも騙してくれましたね」

「君こそよく佐和山に」

「あっ。やっぱり無計画な行動でしたね。許せない」

「でも、忍姫に事前連絡ができたっでしょう。さぁ、これで君の任務は終了だよ」


 でも、鰯丸は首を振った。

「今度こそ巴様の最後までのお供致します。貴方には言い足りない事山程あれど」

「なら、言い合おうよ。第一まだデートしていないじゃない」

「嫌な人」


 鰯丸が微笑んだ。でも、いつもの彼女とは雰囲気が違う。時間にしてたった三日で妙に大人びた感じだ。


「少し思い出したんです。ちっさな頃、小田原の支城のどこかにいたんです。そこも燃えて、独り取り残されて、もう死んだのかなと思ったら、平塚の殿が抱き上げて下さいました。今、父母のところに参ります」

「平塚為広さんが救ったなら、君は生きる義務があるんだ」

「いえ、もう私の役目は終わり、今貴方がそう言った」

「新しい君だけの任務がある」

「嘘。信じません。第一私は巴様の侍女」

「君が、好きなんだ。僕、君が誰よりも好きなんだ」


 本丸の正門が突破された。もう秒単位で動かないと。

「大好きだよ、鰯丸。だから二人で現〇に逃げよう」

 大人びていた雰囲気を醸し出している鰯丸も、さすがに硬直した。節操? この時代は本妻お妾いるじゃないか!


「うふふ」


 鰯丸は笑う。それはOKなのかお断りなのか断定できないけど、僕はイチかバチか鰯丸と接触しながら回線切断にチャレンジしようとした。もしも、神様がいるなら、触れ合っていれば僕たちは現代に強制送還される可能性もある。


 でも、接続の状態は高速で悪化している。禁則処理はあるのに、こんな時に限って回線切断がされないなんて!


「マイホームリターン! 緊急回線切断を望む!」


 段々関ヶ原の時みたいに色数や画像の安定性が失われて行く。インカムから雑音がした。ハカセからの連絡だろうかと僕は耳を澄ますため鰯丸の手を離してしまった。


「鰯丸、僕から離れちゃだめだ」


 瞬間的に僕は闇の中にいた。全く反響しない不思議な音で鰯丸は話しかけてくる。



『やっと本心を言った。おばかさん。でも、駄目よ』



 僅かに、絶叫や銃声などが聞こえる。そんな状況で鰯丸の声は意外に鮮明に聞こえる。だから鰯丸は近くにいるからだろうと僕は目一杯闇を探るけど、彼女を捕まえられない。


『だって貴方遠い遠すぎる人でしょう。貴方を待っていたら私お婆さんどころじゃない、化物よ』


「違う、生きていてくれればいいんだ。それで充分だよ」


『それでも貴方には巴様がいる。とても適わないもの』

 辺りが、本丸内部の温度が急上昇しているのが判る。接続状況は絶望的だ。


『ねぇ、私が雨粒だったら貴方を潤せたかかな……きっと燦々と輝くお日様があっという間に乾かしてしまうね』


「鰯丸、だめだ。本丸は燃え尽きる」


『もし私が仔……ったら、貴方の隣が……もずっと一緒に×○れたのにね。さようなら』


「鰯丸、どうしてなんだよ。生き残ってよ」



 火災の影響か、内部が崩れる音がする。



 そして、もう一度声がした。



『人は“よわし物”。でも、洸次、信じていれば、どんな形でもきっとまた逢えるから』




 鰯丸のようで鰯丸とは違う印象の声がした。それを最後に、全てが遮断された。



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