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炎上直前の再会

「おのれ、長谷川宇兵衛、末代まで呪うぞ」


 絶叫がある。地震じゃないけど地面が揺れていた。


「邪魔だ。ここで兜首とら  ……仕官ができねぇだろ」

「こい…、バテ…ンの手先か?」


 座っていたはずの座席がなかった。慌てて立ち上がった僕。どうして、ここどこ?~ 走行中に~立ち上がるな~。インカムを、つけるんだ~。


 間延びしたエコー音。


 佐和山城! ここは佐和山の大手門だ。間違いない、僕は佐和山城にジャンプしていた。インカムなしで。


「二の丸から退け」、「三の丸にで返り討ちしてくれるわ」、「女子供は本丸に行け」


 頭にインカムの装着感。途端に音声視界がクリアになった。


「ハカセ、僕佐和山だよ」

『なんでじゃ。で、状況はどうなっとる』


 小早川の三つ巴紋の軍旗が活発に動いている。あちこちに黒煙があがっている。


『なんじゃと、“今日は十八日”じゃ』


 落城の日だった。


「しのぶちゃん、鰯丸」

 僕はともかく責め立てている侍を追い駆ける。少なくともしのぶちゃんは、その先にいる。


 どこからか。銃声がして衝撃を受けた僕は膝から倒れた。銃弾が当たったのかな。


「しのぶちゃん、鰯丸! 逃げるんだ」


 土下座の姿勢で叫ぶ。誰かがそんな格好の僕の手をとった。


「貴方は、平塚の巴さんと一緒だった異形の人」


 嘘。


 僕は、佐和山の大手門から、どこかにまた瞬間的に移動していた。仕組みなんて後でハカセが説明するさ。


「姫、本丸に」

「いえ、貴女は城外に御往きなさい。まだ間に合います」


 しかし、ここは薄暗いし煙たい。無駄なほどの罵声や絶叫悲鳴に時々銃声が混じって話しにくいんだ。


「さぁ、しのぶちゃん。逃げるんだ。石田三成、つまり君の家族は青×に落ち延びられるんだよ。君もその人たちと一緒に」


 ハカセのレクチャーだった。青森も禁則にかかっていた。


「それは赦されません。我が父を信じて倒れた方々を裏切ることになります」


「しのぶちゃん、いいんだ。裏切りでも生きているから伝えられることもあるんだ。一緒に逃げよう」


 僕たちはお互いの手を握りあっていた。黒煙の濃度や息苦しさはひどくなる一方だし、銃声や真剣のぶつかる音が迫っている。


「異形の……」

「笠井洸次です」

「笠井君、しのぶは渾名。一寸本名が好きになれなかったの」

「いいから逃げよう」

「聞いて。私の本名は忍、お・し・と申します。太閤殿下御健在の折、父が陥とせなかった城の名」

「だから? 陥とせなかった城にちなんだ名前なら、君も陥ちない。逃げるんだ」

「いえ、これで父の悲願が成就します。ねぇ、笠井君は嘘つきね。正継御祖父様はもう切腹なさっていますよ」

「そりゃあ何人かはね、でも助かる人もいるんだ。信じて」


 忍姫の腕を掴んで僕は歩き出す。その方向から脱出できる保証もなく。


「いけません、石田の家名を汚します」

「お願いだよ、生きてください。汚れてでもいいんだ。君が、大人の政権争いに巻き込まれないで生き続けてくれるなら、それでいいんだ」


 僕の頬を忍姫は指の腹で拭った。鉛筆みたいに細長かったけど赤ちゃんみたいに柔らかかった。


「私の為に泣いてくれるの」

「知りません。僕は貴方と逃げたいんです」

「父三成が起こしたとも言える戦火にいながら、そんな業深い娘の為に泣いてくれるのね」


 僕は忍姫を拉致しようとしている敵と勘違いをされてしまっていた。槍が僕に刺さったけど、槍の勢いで尻餅をついただけだった。データー化が半端なおかげだった。


「姫様、こちらに」

「待って去暦」


 お侍に腕を掴まれて遠ざかっいく忍姫、しのぶちゃん。


「だめだよ、本丸に行ってはダメだ」

「有難う。私、最後まで諦めない。だから泣かないで。有難う、さよなら。私の為に泣いてくてた人」


 お侍に連れられた忍姫は、僕の視界から消えてしまった。


 江州佐和山城、三の丸炎上。残すは本丸のみ。



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