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戦場の親子、紅餅

 西方に味方する素振りをしながら結局裏切った小川祐忠隊は、かなり我武者羅に攻めていた。


「小川祐忠旗下、小川勘助の臣、梶井太兵衛と申す、平塚因幡殿、お手合せお願い致しますぞ」


 すぐ駆け寄れない距離なのに、なぜか僕はこのやり取りが鮮明に聞こえた。

 そして、ハカセの余計な解説も、

『いいか、洸次。その梶井が平塚の殿様を……倒すんじゃ』


 平塚因幡守為広戦死。


 一日での最大激戦とか、戦死者数万とか。でも、僕にはそれは意味のない数字なんだよ。

 君を、平塚巴を助けられないなら。


「ねぇ、笠井君。お願いだから落ちて。関ヶ原から離脱して」


 望んだものではないさ。でも、まだ僕がここに、この時代時間と繋がっている価値があるなら、抵抗しなくちゃ。


「落ちたい、な。紅餅さん、君こそ姫も殿もいないんだ。君こそ落ちてよ」

「私は、鰯丸みたいに戦災孤児、小伊賀みたいに農家の娘じゃないの。巴隊で唯独り産まれた時から武士の子。お父さんや家の恥になるから、逃げるなんて出来ない」

「僕と、一緒に佐和山に行こう。逃げるんじゃない、再起戦をするんだ」

「でも、お父さん案外近くにいるからさ」


 湯浅隆貞を討ち取ったと言う勝鬨が聞こえた。あの大谷隊のお侍さんも死んでしまったんだ。


「近くに? なら、僕が謝ってあげるよ。だってそれが石田様のためになるんだよ」

「そうかな。私のお父さん金吾様の鉄砲隊の小頭なんだ」

「金吾?」


『洸次、それは、いの一番に裏切った、小早川秀秋の唐名じゃ。そのお嬢は……』


 小川隊を割るように、三度平塚隊に敗退した小早川隊が再編成をして突入してきた。


 戦闘の定法では、まず射撃で相手の反撃力を殺ぐ。つまり、整然と隊列を組んだ射撃を小頭の命令一下、


「撃て!」


 うるさいよ。


【全年齢の表示を禁止する画像を処理しました】、【接触レベルの限界以上の衝撃を感知しました。処理許容を超過しました】、【回線切断を提案します】、【以下のサービスセンターに連絡をしてください】


「うるさい、うるさいよ!、緊急コード、HーITY555……」


 緊急コードを唱えるのも邪魔だけど、切断だけは避けたいから仕方ない。でも、雪崩みたいに僕を塞ぐ禁則事項の表示は、どうしても消去できない。緊急コードを口にした直後は減るんだけど、後から後から湧きあがる。


「紅餅さん、負傷退場だよ。さぁ、佐和山に行こう」


 手が、頬が濡れた感覚がある。


 でも、なんで濡れたかを確かめたくても、


【25歳以下には不適切な音声を処理しています】、【年齢処理が間に合いません、色彩を白黒モードに変換します】、【16歳以下には不適切な画像を処理しています】


「もう、佐和山は無理かな」

「行けるよ、荷車と馬を探すから。そしたら、佐和山で鰯丸がプリプリ怒って待ってるよ」

「ねぇ、私の襟や袖に、君の手形がある。御朱印みたい」


 どうしてそんな場所に手形なんかあるんだよ。僕には、禁則表示しか見えないんだよ。


「ねぇ、一番じゃなくてもいいの。私の事、好き?」


 今更になって徳川旗本部隊、戦線登場。


 遂に、石田隊も崩壊。



 紅餅さんは、震えた掌で僕の頬を撫でる。

「好きだよ。僕、結構ポッチャリさん好きなんだ。紅餅なら、願ったりだな」

「嬉しい」


 紅餅さんは、火縄銃を杖代わりにようやく立ち上がった。

「貴方の言葉と手形。どんな古刹、勅願寺の御朱印を頂くより嬉しいな」

「なら、佐和山の後で京都に行こう。二人、いや鰯丸やしのぶちゃんもいっしょでも、あれっ京都は新婚旅行の場所だけど構わないよな。戦争が落ち着いたら、京都奈良で御朱印をもらいまくろう」

「凄い計画。ねぇ、それならコッソリ話しておかないといけないことがあるの」


 紅餅さんは、右手をヒソヒソ話しの姿勢で口元に当てた。そして、僕は本当に骨の髄まで馬鹿なんだ。無警戒に耳を近づけた。


「さようなら」


 紅餅さんは、銃床で僕を突き放した。想定していなかったから、一回転してしまった。


「紅餅さん!」


 必死で起き上がり、紅餅さんの名前を叫んだ。でも、それでどうなるんだよっ。


 もう、僕の関ヶ原での視力は白黒から、ワイヤーフレームの破線しかない。全てが不鮮明で紅餅さんに肉薄できない。そんな時一発銃声が鳴る。


 即座に遠方で小早川の鉄砲隊、


「あの鉄砲武者を撃て!」


【回線遮断します】


 一瞬だけ、また頬が濡れた感覚が残った。だけど、なんで濡れたのかはもう判らない。禁則表示と闇がどんどん拡大化して、僕を支配する。緊急コードはなんの抵抗力も発揮してくれなかった。


【切断で復帰できないデーターがあります。メンテナンスを受けてください】、【……



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