進行する現実、巴と遮断
一度は退けた小川祐忠隊が肉薄。
平塚因幡守為広さんは、得意の獲物の六角鉄棒を思う存分に振り回していた。でも、早朝からの疲労から、勢い余って鉄棒を彼方に放り投げてしまう。
「ぬ。これまでか」
「殿、この“楊枝”お使いください」
藤蔵さんが自分の槍を為広さんに投げる。見事槍を受け取った為広さんは、周りの敵を叩き伏せた。
でも、代わりに徒手になった藤蔵さんが倒れていた。
「藤蔵、何故槍を手離した」
「因幡守を拝名した我が殿が獲物なく討ち死にしては末代の恥。藤蔵、武士の本懐です。しかし殿、槍は突くものですよ。お先に……」
「なんと、痴れ者はこの因幡だ。藤蔵、お前の槍、暫く借りるぞ」
為広さんと藤蔵さんがお別れをしている。そんな状況で、もう一度僕は宣言した。
「いつも輝いている君が好きなんだ。だから、僕ともう一日輝いてください」
巴さんは、槍を片手に、静かに目を閉じた。
「貴方と、もう一日? 私、こんなに血塗れなのに」
「関係ないよ。ねぇ、薄葉さんたちだって世田谷に残ったり逃げる選択もあったのに、迷わずに君に従ったのは、輝いている君が大好きだからだ。一番君が好きなのはもちろん僕だけど。だから、僕ともう一日を……」
「笠井君と」
「笠井洸次だよ。平塚巴さん」
顔は伏せているけど、巴さんはゆっくりと僕に近づいてきた。
「凄い一日だね。武蔵国から美濃まで三刻足らずで移って。武士として輝いて、女子としても輝けたなんて。ほら、これで二日分以上輝いたよ私」
それは違う。まだ君は女の子としては輝いていないよ!
「有難う、でも君はここに居ちゃあいけないんだ。でも、私は、ここが居場所」
巴さんは、身を翻す。
「さようなら、ここに居ない筈の人。でも!」
槍を持ち直して、小川隊の中に突き進んで行く。
「もしまた逢えたら、逢えるように輝いている私を探して! きっと!」
絶望的なお別れの言葉。
途端、僕と巴さんの間が闇で遮断された。
いや、さっきから僕の視界が色彩が少しずつ失われているじゃないか。
「ハカセ! 視界がなくなってるよ。戻してよ!」
『原因不明じゃ。かなり危険じゃ、引き返せ切断するぞい』
「やだ! HーITY555うっふん、回線接続を強行せよ」
巴さんを追い駆けるために闇に手を延ばした。まるで抵抗も違和感もなく、僕の闇の中に触れた腕は消えた。
『主幹、無闇にコードを公言するからです、今この貴重な標本を失ったら』
『くだらん話をしとらんで、復元せんかい』
プログラムもコードもいらなかった。ただ、僕が闇から離れたら腕は元通
りに、僕の身体に付いていた。でも、闇はどんどんと大きくなっていく。
「笠井君、もういいよ」
聞きたかった、でも一番聞きたい人の声じゃなかった。
「紅餅さん。よかったまだ無事だったんだね。あ、巴さんが見えないんだ。今どこで戦っているの?」
「姫が、見え、ないの?」
「情けないんだけど、視界が闇に。なんて言うか、ともかく見えないんだ」
「姫は」
紅餅さんは火縄の次弾装填をしながら。敵側の鉄砲隊も射撃。ただでさえ微小な平塚隊は、また減ってゆく。
「御立派な最期だったよ。笠井君に見送って貰いたかったな」
紅餅さんがたった一発の反撃射撃をする。
でも、さ。巴さん。
立派な。
最期。……なんだって。まだ君は女の子として輝かなかったじゃないか。なのに。




