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戦場の親子、巴

【R指定の画像です】

【ユーザーの接触レベルを超過した外部刺激を関知しました】

【音声に不適切な表現が継続しています】

【笠井 様の、接続レベルを超過する準備品の携帯を警告します】


 畜生。戦場で矢弾より禁則事項が立ちふさがっているなんて。ほとんどR指定と禁則事項だらけの関ヶ原。ンなことは納得してるんだよ。


【切断準備をします】

 さすがにそれはヤバイ。

『メンテナンスコード入力』

『手緩いわい、緊急、HーITY555うふん、障害を容認する回線は継続じゃ』


 僕の視界を全く奪っていたRTの警告アイコンの嵐が止んだ。


『主幹、個人的コードはバグの元だしシステムに負担だと私たちのは潰させて自分のは、残していたんですか』

『あ~洸次。大人の会話は無視して突き進め。じゃが無理はするな。いざとなったら儂の方から問答無用で切断をするぞい』

「ハカセ、助かるよ」



 直線だと大谷隊と平塚隊は間近なのに、現実の東海道本線が邪魔をしたりして僕は随分時間をロスした。


「殿様、平津為広さん」

「笠井君、佐和山に移動しなかったのか」


 やっと為広さんに会えた。だけど、再会の次の瞬間揉み合っているお侍が為広さんにブツかった。この人、さっき僕と大谷隊陣地に行った従兵だ。


「痴れ者」


 為広さんは、敵足軽を鉄棒で叩き潰すとブツかった従兵を厳しく叱った。


「藤蔵、乱戦に主を見失い、まして仕合の妨げをするとは不甲斐なし。ええい、その様な“楊枝”を振り回すのは平塚家の恥。退れ」


 藤蔵と呼ばれたお侍は頭を下げたまま後摺りして為広さんと間を保つ。

 改めて、

「大谷刑部さんとお別れの言葉を交わしました。その、実は」

「皆まで言わずとも承知」


 僕は、大谷刑部さんの遺言でもある和歌を、大声で詠んだ。きっと、たまたま僕の叫びを聞いて、運良く生き残った誰かがこの血染めの伝言を正史に刻むんだ。


「今、笠井君を落としてやれぬぞ」

「一切承知」


 僕は関ヶ原に来て、初めて笑った。。

 脇坂に続いて、朽木元綱、小川祐忠、赤座直保が裏切る。だから、どんなに剛力の為広さんの鉄棒が血濡れたままでも、西軍、平塚大谷隊の崩壊は止まらない。


「笠井君、どうして」


 瞬きみたいな短い時間で僕は為広さんと離れていた。

 胴丸と言う簡易鎧や陣笠もしてない、異形の僕には攻撃をする敵がいないから、僕は太刀をぶら下げて歩き回っていた。意外と目立っていた僕を巴さんが見つけた。


 巴さんの近くには紅餅さんしかいない。


「笠井君、薄葉たちは立派に旅立ったよ」


【全年齢に不適切な画像を処理します】


 多分、モザイク処理された場所に、薄葉さん、小伊賀さん、弓勢さんが永眠っているんだ。もっと貴方たちと時間が欲しかったな。破廉恥な異形の青年の印象のままでもよかったからさ。


「笠井君は鰯丸と佐和山に行ったんじゃないの、どうして」

「鰯丸は、佐和山に強制送還したよ。もう彼女はこの戦場ではお荷物だからね」

「そう。でも、それは笠井君も同じだよ。そんな異形の首を挙げても手柄にならないんだ」

「なら一層好都合だ。ぶっちゃけ僕、まだ巴さんや為広さんを逃がすのを諦めてないんだ」

「逃げないよ。巴は武士の子です」


 ちょっと不謹慎な映像かもね。返り血を浴びているフル装備の女の子とかなり泥まにれな制服姿の僕。


「僕は普通の高校生なんだ。だから、逃げちゃっても平気なんだ」


 巴さんに二人の槍兵が迫る。一人と凌ぎ合いをしていると、もう片方が隙を狙う。


「畜生、剣道の授業九月からなんだよ」


 最初の一撃で僕の太刀はすっぽ抜けた。とっさに体当たりして馬乗りになり、槍兵をボコ殴りする。


「笠井君、そいつ暫く動かないよ」

「ほら、役に立つでしょ? 剣道の授業受けてればこの三倍は……」

「それ、“こうこう”の話しなの?」


 平塚大谷隊だけでなく、戸田武蔵守重政隊、織田信貞らの旗本部隊も崩壊が始まった。


 僕は、間近に遠目に始まりかけている残酷な事実を背景に、巴さんの質問にうんと答えた。


「行きたかったな、笠井君と同じ“こうこう”。でも、それは何年何代も先の出来事なんだね」


 そりゃあ、あれだけ無茶苦茶な科学利器や道具みせたら南蛮渡来じゃダマせないね。


「だからお願い、私たちを忘れないで。平塚家の最期を語り継いで。それで充分」

「僕は、巴さんに生きて欲しいからお父さん、為広さんのことを教えたんだ」

「教えて、ないよ」


 新手の足軽を巴さんは槍で足払いする。紅餅さんの火縄銃が発射され、至近距離で被弾した敵兵は生々しい音を残して倒れる。大柄で目立つ為広さんの鉄棒が何回転もする。


 こんな奮闘の御陰で、またほんの少しの間が生じた。僕たちが、戦場で語るにはやや甘ったれた会話を許される程度の隙間が。


「ねぇ、笠井君。お父さんを見てよ。このままだと確実に死ぬのに、溌溂としている。お父さんは、平塚為広の人生は、二日で充分だったんだ」


 二日? 丸きり活躍していないけど肩で息だけはしていた僕。


「三日だ。暴れ馬。刑部殿の推挙で大名に任じられた日、今日この時」


 藤蔵と呼ばれたお侍と為広さんが歩み寄って来た。あと一日は?


「大昔、播州で福原助就殿の首級を挙げた日だ」


 巴さんとか、子供が産まれた日じゃないんだね。


『洸次、洸次』


 久しぶりにハカセの音声。どうしても入れ知恵したいんだって話しかけて来た。


「あの、もしかして巴さんのお名前は、その福原さんの由来なんですか」

 為広さんは、ほぅと驚いた顔をして僕を凝視した。


「醍醐の折と言い、笠井君は妙な昔話をご存知だ。ご指摘通り亡き太閤殿下の四国征伐の頃授かった末娘に、私の初の武功の福原氏の巴紋から因んで名づけた」


 為広は巴さんをチラッと伺った。

「命の遣り取りは武士の習いだが、天下が太閤様の許に治まりつつあったあの頃、福原氏の冥福を祈り名を頂戴したのだが、とんだ暴れ馬に育ってしまったな」

「古来より巴は武辺の女子の名です」

「ならばその名、汚すなよ」


 為広さんは、また振り返って圧倒的な敵兵に鉄棒を振るう。


「名前の由来なんて知らなかったな。有難う、笠井君。もう今度こそ君は落ちてよ」

「嫌だ。僕は、僅かでもチャンスがあれば巴さんを戦場から離脱させたいんだ」


 そのために、僕は滅茶苦茶に太刀を振り回して巴さんや為広さんから離れないように奮戦しているんだ。


「わからず屋」

「君の方だよ」


 今度は、三人の足軽が突進。巴さんは槍を大回転させて三人とも撫払いで秒殺。


「ねぇ、笠井君。お父さんだけじゃない、私も輝いているんだ。死が迫っている今この刹那、生きていると実感してるんだよ」


 槍の血糊や頬を染めた返り血を拭いながら。


「あのまま武蔵国でつまらない男を良人とする人生もあったね。でも、今こんなに自分の全てが沸騰した想いの一日を笠井君がくれたんだ。どんなお礼でも言い足りないくらいだよ」

「なら」


 戸田武蔵守重政戦死。小西摂津守行長隊、宇喜多権中納言秀家隊崩壊止まらず。


「一日じゃなくて、もう一日、僕のために生きてよ。二日生きてよ、君が」


 一応、パラドックスを警告するとハカセと橋本さんの音声。煩いっ。


「今一番輝いている君が大好きだよ」





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