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準備

「で、私は財布係りと運転手ですか。伊藤主幹。貴方に破壊されたデーターや機器の回復もママならない人間によく平気で頼み事しますね」


 二丁目のオヤジこと橋本氏が来た。正直勘弁な人なんだけど、でもRT関係の能力とハカセの人脈では、仕方ない選択らしい。


 ハカセと橋本氏が物言いをしている間に、僕は何回目かの泥縄歴史講座。


「ほれ、橋本。お前さんもインカム経由で洸次にリンクすれば、関ヶ原の音声くらい聞けるぞい」

「私は、信長ファンなんですがね」

「もう、この気になっとろう。セリフが嫌です、ではないの」

「しかしシステムの負担を減らすために、実際に関ヶ原まで走行するんですか? 主幹、貴方の理想は全てのデーター化で、実体の物理的移動は……」

「ほい、いいから。いいから。今は青春モード一直線じゃ」

「ですが、もしタイムパラドックスが起きたらどうするんです。この危険性を貴方が危惧し実験の早期実行に反発していたでしょう」

「起きん起きん。そう信じろ。どんなに逆立ちしても、この洸次以上の時間超越者がいないんじゃ。なら、こやつに気持ちよく時間を飛んで貰え。後始末は年寄の役目じゃ」

「貸しですよね」


 大人の会話はひと段落したみたいだ。って僕の歴史知識はかなりヤバイけどね。それに、ナゼかヘンタイ本多も巴さんと会っているけど言わないよ。面倒だからさ。

『洸次、インカムから音声が聞こえるかえ』


 荷台に支援端末や発動機、バッテリーを積んでいた僕に、ハカセが指示する。すぐいつもの机に置いたままのインカムを装着。


「あれ、画面の隅にハカセの顔がシワまで見えるよ」

『ほっ。まだ冗談言える余裕があるか。この画面が出ていれば、接触レベルや禁則をある程度コントロール可能な合図じゃ。タイムリーではないかも知れんが、ログオフせんでも指示や色々とレクチャーできるように改造済みじゃよ』


 ハカセのウィンドウが消えたら危険なんだね。

「発動機もっと少し欲しいですね。でも支援機器を増設配置する暇はなさそうですし」

「そうだのぉ」

「ねぇ、積み替えるの? 機械やバッテリーはあるだけ荷台に積んだよ」


 ハカセたちは、またヒソヒソ話しを再開。そんな時、ブチの仔猫が荷台にジャンプしてきた。


(どいてよ、私の場所よ!)

 代弁するとこんな感じかな。仔猫は何回か鳴くと、僕目掛けてまた飛翔。

 引掻かれる! 僕は目を閉じた。


 身体に痛みは、あった。でも猫の爪の痛みではなかった。

「洸次、どうしたんじゃ」、「全機器が作動、アラームを発してます。おい少年、笠井君」


 全てが崩れている。




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