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僕の居場所じゃない競技場

 翌日の日曜日に、荷台ドライブ。


 今年県下の女子ラクロスの地区大会決勝戦は、結構遠い場所で主催されるらしい。会場は年度毎に変更する基本持ち回り制だから、仕方ないよね。


「家の車両、使えるのも今選挙標語や名入じゃないの、この軽車両だけなんだ」


 何度も遠征するのは、高校生のお小遣いでは正直厳しい。ラケットとか荷物も嵩張るから、車は必需品だけど、毎回はなかなか手配は困難だ。


「軽に四人。道具と残りは伯父さんのトラックですね」


 部長さん。確か三年生の岸谷史子先輩。既に免許習得済みで軽は岸谷先輩が運転するとか。


「では、三浦さんも渡辺さんもみんな頑張ってね」

 僕は、荷台に道具類を積み込みながら声援を送る。

「何を言うか。洸次も来るんじゃ」

「でも、どこに座るのさ。トラックの助手席?」

「あ、助手席は私」と二年生。「荷台なんて怖くて乗れないです」

「岸谷部長も隣が男子はヤバげだって言うから、笠井さんは荷台組ね」、こっちは三年生の平部員。

「密着してる訳じゃないわい。お嬢ちゃん、大丈夫じゃろ」

「うん平気。皆が駄目なら私が笠井君の隣にいるよ」


 三浦さんの一言で、僕たちは会場に向けて出発で、いいの?

 剥き出しだと危ないと直前に荷台にシートを敷いて幌を張った。三浦さんだけが、幌を反対したけど。


「隙間風でも気持ちいいなぁ」

 三浦さんはウキウキ状態。僕は、荷物のバリケードはあるけど、女の子に囲まれているから、いつの間にか到着したって印象で、どんなドライブだったか全く記憶にメモリーされなかった。



「ねぇ、女の子ばかりだよ」

「当たり前じゃろ女子大会なんじゃから」

「ものすごーく浮いてないかな」

「なら、こんなのどうじゃ。お嬢ちゃんたち伯父さんの手品に注目」


 ハカセは、自分のフィスホをちょんと触った。フィスホ持っていたんだ。

「カメレオンモード起動、衣装のみコピー」

「? あ? 僕、女子ラクロスのユニフォーム姿?」

 白いポロシャツにジーンズ姿の僕は一瞬で女子ラクロスのユニフォームに変身。


「ハカセ! まるで僕変態じゃないか」

「凄い! お店じゃなくて変身ごっこだ」

 三浦さんは、案外はしゃいでいた。でも、思い出したくないけど、RTの悪用で杉山さんは傷ついたんだよ。


「悪い、もうせんから。ほれ、荷下ろしを手伝わんか」

「三浦さんが笑ってくれたからいいけど、やめてよね」

「ほいほい。水はお前さんの役割じゃぞ」


 ハカセは、ミネラル水の入ったダンボール箱を荷台の端から押し出す。

「御免、笠井君。設営とか任せてウォームアップ初めていいかな」

「うん、試合頑張ってね」


 今回も地区大会の名称でありながら複数の連合大会で開催。僕らの地区は、二試合目。御陰で三浦さんたちは充分とアップや作戦会議をして試合に臨めたみたい。


 来て、ヨカッタな。

 僕のコスプレで緊張が解けたか、そもそも実力か。三浦さんは試合開始早々にゴール。幸先のいい展開になった。


「前半で三対一。いいね!」

 なんだか、あっという間にハーフタイム。岸谷先輩も上機嫌。皆明るい笑みが溢れていて、僕も身体が熱いよ。


「県大会も行っちゃうか」、「明子、ダブルハット行こう」

 三浦さんは、ミネ水を飲みながら、


「よおーし、もっとギラギラするぜ」

 元気の塊。我が校ラクロス部は、後半開始のホイッスルでダッシュでグランドに戻る。


「油断禁物、焦らないで確実に」

 三浦さんの檄に全員がステックを高々と揚げた。後半も、動きも正確さも断然三浦さんたちが格上。点差は、前半以上に広がってる。


「県大会だね」

 ハカセもうなずいた。後、三分もない。

 相手チームも奇跡の逆転に賭けて猛攻。すると、


「岸谷先輩が突撃してるね」

「あの部長さん今日無得点じゃから見せ場を作りたいんじゃろ」


 ボールを持っていた岸谷先輩からインターセプトを狙って相手のディフェンス二名が接近。近すぎる、と感じた瞬間岸谷先輩が突破を試みたけど、失敗。しかも、先輩は勢い余って転倒しちゃったんだ。


「担架だ、担架持ってこい」

 岸谷先輩は自力で立てないようだけど、担架に載るのは嫌がってた。すると、


「すまん……そこの応援団。担架を頼む」

 本来なら先輩を運ぶ担架係の役員がぎっくり腰らしい。だから、学生スポーツで教員が部長とか役員って納得できないんだよ。女子は、どうしても若い先生を配置しにくいからさ。


 僕は、ハカセと二人で先輩を運ぶ。


「先輩」、「痛くないですか」、「大丈夫、ハカセさんにぱぱっと応急処置してもらってすぐ戻るから」


 軽の後部ハッチを開けて臨時の診察台。

「ううん。こりゃ、続行は無理じゃな。すぐ病院直行せんと」

「それって棄権しろってこと?」

「当たり前じゃ。お前さん放って治るもんじゃないぞ。こんなに患部が膨らんどろう」

「でも、後二分程度なんです」

 ハカセは、僕を手招きした。


「主審に棄権を伝えぃ。このまま儂が病院に運ぶわいな」

「そんな。待ってください。っ痛ッ」

「喋ってるだけで痛いなんざ大怪我じゃわい。また夏の本大会があろう」

「でも、県大会なんです。後二分なんです。ねぇ、笠井君、君からもお願いして」


 先輩は、ハカセの襟首にすがって僕にも懇願してる。

「この試合に勝てば、夏の本戦のブロック大会免除されるんです。ねぇ、笠井君。明子が相手選手怪我させたの知ってるでしょ。一日に二試合も三試合もするブロック戦だから、疲労で急ブレーキが効かなかったんだよ。お願い、私が戻るのがダメなら」


 いや、それは悪魔の誘惑だよ。

「さっきのウラ技で、カメレオンモードで笠井君が試合出て。手品でも魔術でもいいですから」

「そりゃあ、技術的には可能じゃ。しかし」

「点差があるもん、ただ立っていらばいいよぉ」

「そんなこと駄目ですよ」

「ねぇ」、先輩は、啜り泣き始めた。

「多分足、夏まで治らないよ。私、これが最後の試合だよ。イヤだよ。私の怪我で敗退なんて。もうブロック大会免除を掴んでいるんだよ」


 僕は、このままどんなにかイケナイ事態になるか恐ろしかった。

「棄権伝えに行きます」、「お、おう」

「明子が一番、県大会行きたいはずなんだ」


 僕は立ち止まらなかった、この時は。

「シルエットコピー、アンドチェンジ」


 立ち止まった。僕は、岸谷先輩になって足もご丁寧に膨れている。岸谷先輩は、ハカセのフィスホに手を伸ばしてからカメレオンモードを起動していた。先輩、やり方、覚えてたんだね。ハカセ、どうしてプロテクトしなかったの!


「ねぇ、恩に着るよお願い」

「だめですよ、こんな真似」

「当たり前じゃないか」


 僕、死んでいいですか。三浦さんが真後ろにいた。

「どうしてあの怪我で戻るなんて言ったかとおもったら、こんな」

「明子、ごめん。でも、こうすればブロック大会免除できるんだよ」

「先輩駄目ですよ。どんな結果でも、誰の責任でもないです。敢えて言うなら、リザーブを用意出来なかった皆の責任です。でも」


 先輩な僕を三浦さんは、まるで僕の存在を認めないように辺りを見渡しながら、


「こんな不正はいけないです。笠井、見損なったよ。こんなことするなんて」

「明子違うよ。これは私が勝手に……」


「見損なったよ、笠井。君はグランドにいちゃあいけないんだよ」



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