僕と、学園美少女たち
全力疾走をしているつもりだけど、こんな時は帰宅部の運動不足を痛感するね。
僕は、大急ぎでRTのレンタル店から出た。
そして走った。
自転車置き場がない店だったから、目的地まで駅前商店街を経由して走り抜けるしかない。現実はどんなに危なくてもセーブできないから、すごく注意している。
「絶対県大会行こうな」
僕の足は瞬間強制停止。また誰かにぶつかりそうだったからじゃない。
「なんだか最近ラケットが軽くて軽くて」
距離サーチ。およそ二十メートルって目測だけど、僕は前方の女の子の集団をみつけると、近くの魚屋さんの店内に隠れていた。
「よぉし、栄養をつけてブロックと地区大会に備えるぞ」
三浦さん……
僕のクラスメイトの三浦明子さん。
ちょっと日焼けしているけど、明るくて綺麗な瞳と短いけど艶のある黒髪の持ち主なんだ。
ラクロス部所属で、一年生なのにキャプテンになっているすごい女の子なんだけど……
「運動後の女学生のオヤツは、ドンブリに限るね」
まだ十数メートル離れていても届く大声。
しかしクラブ活動したからだけど、どんだけの食欲なんだろう。三浦さん、お昼前にパン三個食べていて、ちゃんとお弁当も食べたよね。これからまだ栄養補給(つまり買い食いだ)をするらしい三浦さんは豪快な声を発しながらラクロスのラケットを持ったグループの仲間とはしゃいでいる。
「明子ちゃん、声大きい」
僕に近づいてくる女学生のグループで一人だけラクロス部のグリーンのユニフォームを着ていないセーラー服の娘、杉山睦美さん。
杉山さんの肩まで流れる黒髪は、三浦さんとは違う輝きをしていて綺麗だ。
部活は音楽部でピアノ担当。新入生なのに僕たちの入学式でピアノを演奏して、その日だけでファンクラブが五つ結成された。ちなみに、杉山さんは三浦さんの肩くらいしか身長がないけど、普通の小柄な女の子。三浦さんも僕と同じクラスなんだ。
「気にしないの睦美。ストレスは身体によくないぞ」
三浦さんがズンズン歩くから、ラクロスグループは僕は杉山さんのちょっと小声でも聞こえる距離まで近づいていたんだ。
「私は一緒にお店に入るだけだからね。丼ご飯なんて食べられないよ」
「お姫様は少食だね。でも、たくさん食べないとおっぱい大きくならないぞ」
「明子ちゃんイジワルなんだから」
「はいはい、ファンクラブの方々が怖いからこの辺でおしまいにしますよ」
他愛もない……のかな?
「明子。県大会なら有名人来るかな」
やはり同じクラス、ラクロス部所属の渡辺千沙さん。
「サインなら相手チームからもらえば」
「う~ん。それはいまイチ」
美少女たちの会話を僕は全力で聞き耳を立てていたけど、「で、どうするんだい。坊主」
魚屋さんに飛び込んだのを忘れていた。
「一番安いお魚ください」
鰯一匹百円。氷と鰯が入ったビニール袋を持って店をでた僕は、うっかり忘れていたことがあった。
「ああ、笠井だ」
三浦さんは、身長が一メートル八十あるんだ。本人は七十台だと言ってるけど。
魚屋をでた僕は、ラクロス部の仲間とお喋りするために振り返った三浦さんに発見されてしまった。
(うわぁ)
十メートルも離れればもうレンジアウトだと油断したけど、百八十センチの視界は伊達じゃなかった。
目聡く三浦さんは百七十にちょっと足りない僕を見つけるとダッシュで接近した。
(ええっと)
スポーツブラで固めているはずだけど、三浦さん本人も自慢しているおっぱいをゆらして接近。
僕はもう逃げ出せない。
あ、僕は特別巨乳派じゃあないんだけどね。
「なにこそこそしてんだ、性少年。まさか、睦美のストーカーかぁ?」
「明子ちゃん、それNG」
三浦さんのヘッドロックが的確に決まって僕は、もう動けない。こめかみに圧迫感がある。あるけど、弾力感といい匂いもする。
「明子ちゃん、笠井さん嫌がっているよ」
杉山さん。イヤじゃないから困ってます。血の気が失せているのかな。身体が沈んだ感覚がする。お父さんお母さん、笠井洸次は意外と幸せな最期でした……
「ギブアップなかったけどな。はい御終い」
三浦さんの締め付けるダメージはマジやばい。頭くらくらで足元がふらついているよぉ。
僕は急いで行かなくちゃあならない場所があるんだ。
「あれなんだあ、鰯じゃない。ん? ああそっかなるほど」
三浦さんは、僕が持っていた魚を発見したらしい。そして右を口に当てて笑った。オバサン入っているし、なにがなるほどなの……
「つまりバーチャルリアリティで活躍した蛋白質の補給か」
「あ・き・こ・ち・ゃ・ん・!」
杉山さんは、三浦さんの耳を引っ張った。
「ああ御免、ごめん、メンゴ。お姫様の前で下品でした」
三浦さんは本気で謝ってなさそうな台詞。僕は三浦さんが杉山さんとおしゃべりしている隙にこの場を立ち去った。
できれば二人と、いや一緒にいたラクロスガールズたちとのお話もウエルカムなんだけど、今はそれどころじゃない。
(ハカセ!)
声に出していたかはわからないけど、僕は大幅な足踏みをして、再びハカセの杜に向かって再び走りだした。