表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/36

僕はどこにいるの?

 まぁ、変態の烙印は免れたみたいだけど、ムダにいい子ちゃんぶったと僕は扱われたみたい。


 お上品なやり方じゃなかったから、杉山さんはなんにも僕に言わなかった。放課後三浦さんが一、二度僕に接近したけど杉山さんが手を引っぱって教室をでてしまったんだ。


 ハカセの杜も。

 二丁目のオヤジさんの車が停っていた。ここまで来るここがあるんだなと眺めていたら、オヤジさんの車とハカセのプレハブを往復する作業員がいた。


「はい。伝えます」

 まだ二十代くらいかな。いかにもザ新米な印象の作業員は、まるで伝言ゲームのように一言二言のリレーを仲介しているみたい。

 どんな事態でも顔を合わせたくないんだ。頑固だね、お年寄りは。

 僕は、結局RT店に行くしかなかったんだ。



『信長シナリオ、新キャラ登場!』

『戦国三傑姫コンプで、ナニかが起きる!』


 新しいイベントのポスターが貼ってある。そう言えば、巴さんもしのぶちゃんもいつからの新キャラで誰のお姫様なんだろう。


「おい、ちゃんと弾除けになれよ。新入り」

 さすがにマニュアルで接客しろよと言い返すのを僕は我慢した。略奪派プレイヤーの巣になっているRT店『アタック』は、バイト店員は常連と馴れ合っているみたいだ。


「アクセスコード、0770。継続セーブ地点からログオン」

 さて、今日の鰯丸はどんな理由で目を回しているかな。

 僕はちょっと意地悪してみたかった。ムキになるから、結構可愛いしね。


「鰯丸?」

 垂井って、そう言えばどこなんだろう。RTにセーブオンした僕の目の前には、教科書で流し見したような派手な衣装の人たちが行き交っていた。

 傾奇者の大行進だねぇ。でも肝心の鰯丸も、垂井のお城も見当たらない。


「座標サーチ&ジャンプ、垂井」


 僕のインカムの右上には無機質なシステムからの回答。【該当地なし】

「座標サーチ、垂井城」、【該当地なし】

「座標サーチ垂井のしろ」、【該当地なし】


 今まで散々プレイして小バグでシャツを一枚ダメにして、該当地なしなんてあるわけないじゃないかぁ!


「ヘルプ開示、ホワット、垂井?」

 落ち着け。ひょっとしたら、誰かがまた僕のデータを侵入して改竄したのかもしれないぞ。


【垂井 候補① 岐阜県垂井町】

【このワールドとマップには対応していません】

【現在 垂井町の公開アクセス者は 四人です。伝言メールを送りますか?】

 …………。対応していない?


 なら僕は誰と、どのワールドでアクセスしていたんだ。



 若い作業員はまだプレハブと車を往復していた。


「ハカセ」、僕は初めてプレハブを覗いた。

「なんじゃ洸次。今忙しんじゃ」


 八畳間ほどのプレハブは大半が電子の要塞で、申し訳程度に椅子と寝る場所っぽい敷物が転がっている。ハカセはわけわからない機器の中で操作をしていた。


「巴って誰なの」

 ハカセの手が止まった。


「正規のRTには、巴さんや鰯丸がいないんだよ。あれほど、会話したのに怪我をする寸前まで接触したのに」


 ハカセはいつものような上目目線はしていない。いや、眼を合わそうともしていない。


「洸次、落ち着いて聞いてくれ。儂も現役ではないから、営業用の新規イベントか隠しキャラ、テストキャラの類だと思っていた。じゃが、どの会社のデータをチェックしてもRTの世界では巴は、平家物語の巴御前しか存在しない。いないんじゃ」


 僕の真後ろに、伝言はどうするのか棒立ちの作業員。

「開発者やメンテナンスの個人的隠しキャラの可能性も考えた。もちろん、そんなデータが蓄積すると結果システムに悪影響を及ぼすがな。兎も角急いで最大限のツテを使って調べた。結論として、な」


 椅子だかゴミだか判らない物体から立ち上がり、僕の肩を抱いた。

「お前さんは、時間を超越して、データや誰かが演技した偽物ではない、本物の関ヶ原直前のお姫様たちと出逢っていた。そうとしか考えられない」


 しばらく僕たちは無言だった。

 ハカセは、僕の肩を抱いたままお手製竈まで連れて出した。ゆっくりと椅子に座るよう促して、僕の正面に立った。


「洸次のお姫様。それは間違いなく本物じゃよ」

 僕は微動だにしなかった。どうすれは、どう答えればいいのか全く解らなかった。

 否定しないことを肯定と判断したのか、ハカセはゆっくりと話し始めた。


「洸次、明日はどっちの方角じゃい」

「それ……?」


 ハカセは普段とは別人。真剣に話しているのが解るから僕も怒らないだけ。無茶苦茶なお話だよ。


「お前さん、今時間を超越するにはタイムマシンが必要だと疑っておろ」

「それにそれってすごくエネルギーが必要なんでしょう」

「じゃから、以前話したデーター化が肝心なんじゃ。RT以外が手ぶらで移動や情報交換を実現しているわけではないぞ」


 ハカセは、プラスチックのコップを左右に動かした。手で押してみたり、強い息を吹きかけたり。


「例えば東京から大阪まで。どんな手段でもエネルギーがいるし、空港や飛行機、電車もかなりの事前準備がなくてはならない。たった一言大阪の人に伝えるために、歩けば何十日もかかるし世の中物騒じゃ。相手が留守なら目も当てられん。道路も結構造るも維持もカネかかるぞ。だけども、音声だけなら電話線と電話、若干の情報ならテレビで伝達できる。全てをデーター化すると言う事は、新大陸発見どころではない革命的な技術なんじゃ」


「技術の可能性とタイムスリップが繋がらないよ」

「じゃから明日はどっちじゃ」


 ハカセは両手をブンと振り回した。ついでに、作業員に休憩を告げて、飲物を持ってこさせた。


「東京大阪はいいさね。関ヶ原でもニューヨークでも。実際にあるんじゃから。道路でも空港でも近未来なら弾丸チューブでも造れる。じゃが、時間はどこから来てどこに消える? いいや、消えてなんかいないかも知れない。そんな不確かな場所に行けるか? 帰って来れるか? 行き来出来なくては産業化は成り立たないぞい」


 僕は出された果汁飲料を飲んだ。写真では見たことがあったけど、初めてガラス製の瓶で飲むジュースの味を僕は全く感じなかったよ。


「じゃあ、データー化された僕は大丈夫なの? これ、実体だよ!」

 ハカセは無責任にうむ、とつぶやいた。つぶやいた後で、

「フィスホのお爺ちゃんたる電話にしても、データー化共通の弱点は、再現性と相手が同じ変換復元可能な機器を持っている必要があること」


「あの時代の関ヶ原に、フィスホもRT端末もない、はずだよね」

「そう。しかし、現実お前さんは“行っている”。実は確認したRTの認識証に残された記録では、お前さんロストしておるんじゃ。現代のどこかで時代錯誤のコスプレマニアに切りつけられたなどではない」

「でも」

「過去に“行った”と自称した者は実は大勢おるよ。じゃが、再現できないから、信用度ゼロなだけじゃ。マスコミも今では相手にせん。実は、儂も過去っぽい時代を見た経験がある。じゃがしかし、相手とは会話が成立しとらん」

「八人衆の時代が懐かしいですね」


 オヤジさんが、そばにいた。

「橋本。来ていいとは言っとらんぞ」

 ハカセは意地でもオヤジさんに背中を向けている。オヤジさん橋本って名前なんだ。


「あ、あいつは帰しました。で、笠井君。この人は各種のデーター化のプロジェクトの中間幹部。中間と言っても実務では高位責任者だった」


「それが八人衆?」

「医療や情報、流通など各方面からの依頼や期待を込めてね。RTは安全であるべきか、リスクは現実同様必要か。RTと現実のリンクは有り得るのか? RTはタイムマシンになり得るのか?」


 橋本さんはちゃっかり持参したパイプ椅子に腰掛けて僕の正面。ハカセは、また身体の向きを換えた。


「あの頃は毎日こんな中学生の空想みたいな話をしながら仕事をしていましたね」

「ふん。過去を振り返るのは年寄の悪い癖じゃ」

 自分が一番の年寄りなんですけどねぇ。


「肉体の少なくとも表層のデーター化の難易度は高くない。しかし、それを時間を超越して転送して交互通信など、可能なのでしょうか。深層の肉体までデーター化をして。世間一般大衆には遠隔操作で緊急治療やネットペットで充分なのに、その先を求める我々は、とんだドン・キホーテでしたね」


「ふん。じゃから、何度もこの少年が、洸次が達成しとろぅ。今更こいつが嘘をつくメリットがあるのか」


 橋本さんは、胸ポケットから小瓶を取り出して口に含んだ。

「さて。私は貴方でもこの少年でもない。再現性がなければ、妄想と同列ですから、なんとしても少年には安定してRTタイムスリップしてもらわないとね」

「いいか。洸次をモルモットにしようなど、考えるな」


 ハカセはとうとう立ち上がり、手にしていたプラコップの中身をオヤジさん目掛けてブチ撒いた。


「でも、貴方は薄々この事態を予測しながら、モニターの名目で実験を止めなかった。なぁ、君はどうだいリスクなしに信長とかと会話してみたくないかい。ノブナガ殺しの真相を知りたくないかい? 恐竜を生け捕りしてみたくないかい?」


「橋本、じゃから!」

「僕、歴史苦手なんだ。年号とか覚えるの嫌いだな」


 橋本氏はちょっと間を置いて笑った。

「年号の暗記は私も大嫌いだ。さて、今日の課題はクリアーと判断しますよ。何しろ、偉大な被験体が自分の能力を自覚してしまった。笠井君、これからはプロジェクトの方針を念頭にお姫様との青春を楽しんでくれ」


 財布を取り出した。

「早よ帰れ」


 ハカセは、地面を見つめながら声を出していた。橋本さんは、肩をすくめて黙って車に乗って立ち去った。


「ねぇハカセ。僕は案外楽しかったよ。時間を超越したなんてまだ信じられないけど」

 テーブルを片付けて、散らかったコップを拾ってようやく僕はハカセに話しかけた。


「この手のお話って大抵機密事項だよね。さすがにクラスでも誰かかにしゃべっちゃぁいけないんでしょ? そこは残念だなぁ」

 ハカセが、初めて泣いていた。


 僅かに肩を上下させて、でも眼から滝のような涙が溢れていた。

「橋本じゃない。儂がお前さんをモルモットにしてしまったんじゃ。RTの可能性を信じていた儂が、RTを楽しんでいるお前さんを裏切ってしまったんじゃ」


 そうなるかな。僕は頭を掻いた。あらゆる事象のデーター化。時間を超えた転送……やっぱ僕にはワカラナイね。


「これから僕はどうするの、どうすればいいの? 結構巴さんとか(鰯丸や紅餅さんたちも)お気になんだよ」


 ハカセを椅子に座らせた。

「お前さんは、どうする気じゃ。紐付きのアクセスになるんじゃぞ」

「まぁ、僕はR指定だし、そんなに反社会的な趣味の持ち主じゃないと思うから、これからも続けるよ。宜しく、でいいのかなぁ」


 そうしたら、ハカセは今度こそ大声で泣き出した。困るな大きい駄々っ子はさ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ