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三浦さんの事件

 ゴールデンウィークも、気づけば今夜で終わり。連休初日以外は小雨模様が続いて外出する気力が沸かなかった。僕はお母さんに、本当に大掃除してくれるとは思わなかったと呆れられてしまうくらいずっと家にいた。おかげで、色んな情報を僕は知った。


 アイドル歌手のコンサートが不法に表示されたのは、周波数が一致した自然のイタズラかも知れないってテレビのおエライ人が解説していた。コンサートが映し出されたビルの構造分子の波長が、一致したんだってさ。


 僕と母さん、そして美香はワケわからないテレビを黙々と聞き流しながら黙々と終わらせた夕食。僕は自分の部屋に駆け込んでいた。


 退屈だよぉ。僕のデーターやプログラムの欠点は、そんなに簡単に修正が完了しないから、結局RTも自粛状態で、連休を持て余してしまっていた。これならば、バイトでもしていた方がよかったよね。


『メールを着信しました』

 薄っぺらい内容で自分が参加もできないデジタルコミックを僕はフィスホで流し見していた。つまらない内容でも、もぅセリフを暗記してしまいそうなくらい何度も読んでいた。そんな時画面の端っこに、メールの着信のお知らせが点滅表示された。


 暇過ぎる時は広告メールでも構わないさ。瞬速で、メールを開く。最速開示に挑戦だね。


『発信者:渡辺千沙

 同報メール:(設定一年四組オール)

 タイトル:今日の試合結果です

 本文:試合ブロック大会突破 同日地区大会ベスト4進出』


「渡辺さん? なんでぇ?」

 イヤイヤ、別に渡辺さんからのメールが不思議だったんじゃないよ。でも、普段なら三浦さんが試合終了の度に『速報勝ったぜ通信』とか来なくね?


 実際、三浦さんは四月。高校生になって初めての試合練習戦でもハーフタイムに『ゴール二つ決めたぜ』って大量にメール発信したんだ。しかもどこでメアド仕入れたのか一年生全員に。大量に送り過ぎて三浦さん川田先生に怒られちゃったんだよ。


 もちろんメール配信は(三浦さん同報メールのやり方知らなかったらしいから、大量に手入力だったとか)仕事に繋がるスキルだと川田先生が認めてくれたから、先生は三浦さんと全クラスに謝りに付き添ってくれたらしいね。


 だから、僕は雨天続きでブロック大会が中止になっていたのかなと勘違いしていたんだ。三浦さんなら、一日のまとめでメール配信なんて我慢できないはずだよ。


 しかも、勝負は水物で我が女子ラクロス部が敗退したなら三浦さんが落ち込んで配信をしなかった可能性もあったけど、地区大会もちゃんと期待通りに勝ち進んでいるし。


「どうしちゃったんだろう」

 センターにも何回か問い合せてみたけど、三浦さんからのメールは、とうとう届かなかった。



 ゴールデンウィークは雨に祟られてしまったのに、開けたら超がつく快晴炎天下を僕たちは登校している。長くも短く説明しても蒸し暑い。こんな気候にブチ当たると制服のない学校に進学した金野君が羨ましいよぉ。


「不可抗力じゃん」、「でも、三浦じゃなかったらリタイヤは無しって話だ」


 口からでるのはその話題ばかり。までは浸透していなかったけど、その分余計モヤモヤした噂が広がっていた。


「相手の選手がヘバって倒れたところに三浦が乗っかったってさ」、「あのオトコ女の巨体がかよ」、「本当なら危険行為だけどさ、ほら」、「ああ、親父が市議だから揉み消したのか。いいねぇ。俺もそんなコネ欲しいよ」


 今年の県下の女子ラクロスは、ブロック大会一位が地区大会。地区大会優勝が県大会に駒を進めるそうだ。これは耳タコなほど三浦さんから聞かされていたからよく知っている。まぁブロック大会が有るか無いか以外は、どの競技も変わらないだろうね。


 だけど、ちよっと大変でプラス異常なのは、わざわざブロックで区分けしているのに一箇所一日でブロック大会と地区大会の半分、勝ち進むと一日で五試合しなければならない仕組みだったんだ。


 学生スポーツは、公式戦だと役員の派遣とかで集中開催しなければならないケースの典型的な障害事例だね。


 噂の段階で、どうこう決めつけられないけど、確かなことは三浦さんは試合中のアクシデントで、相手を怪我させてしまったからメールを配信していなかったんだ。


 三浦さんは、いつもなら誰よりも早く学校のグランドで汗を流していた。でも今日は、ホームルームが始まる直前にようやく教室に入った。


「早く着席なさい」

 川田先生は三浦さんの事故のことを、噂ではなく正確に知っているはずだけど、何も言わなかった。

 三浦さんは、はいと答えたのか僅かにうなずいて一番後ろの席に着いた。

 その途端誰かが、「ドスンっ」

 下司な笑い。「椅子が可哀想じゃん」

 大丈夫なの? と視線を送る渡辺さん。

 こそこそとした嫌がらせの言葉、馬鹿げた視線……


「皆さん、連休は終わりましたよ。中間テストの用意は万端ですか」

 川田先生がどんなに声を張り上げても、クスクスニヤニヤ笑いは止まなかった。


「三浦さん、保健室で休みますか? 無責任な噂を打ち消すために先生は今回の事故の説明をします」

 三浦さんは強く首を振った。


「では、説明します。昨日のラクロスの試合で、転倒した相手チームと我が校の……三浦明子さんが接触しました。その選手は確かに負傷退場しましたが、打撲と捻挫です。複雑骨折とかではないし、どの競技にも日常でも有り得るプレー中のアクシデントですから警告もされていません。それ以上でも以下でもありません」


 それでも、納得しない奴らはいた。

 僕は、ただ黙って教室のスクリーンから視線を外さないままだった。

 ゴメン。僕は、クラス中の悪意を断ち切る力なんてないんだ。



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