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一生に一度の光景

さて、指差した体勢で彼にどんなイベントがあるんでしょう?

「あ、その・・・・・・」


 痛恨のミスに気づいた俺だが、時既に遅し。メリルさんからすれば「何もない場所に幽霊がいると騒いでいたオカルトマニア」に見えていることだろう。


 とりあえずなにか喋らなきゃ、と口を開くが、何を言えば良いのか。

 万事休すか・・・・・・


「その虫がどうかしたの?」

「へ・・・・・・?」


 いきなりメリルさんから訊かれて変な反応をしてしまいつつ、自分の指差す方を向く。


 するとそこには、本当に虫がいた。

 黄色い羽を持ったカブトムシのような昆虫が、窓のサッシの上をてくてくと歩いている。

 が、俺達の視線を感じ取ったらしく、こちらに頭だけを向けてくると、



 立ち上がって二足歩行のまま逃げた。



「・・・・・・は?」


 本来なら「はいぃぃ!?」と、叫ぶはずだったのに、あまりにもシュールな光景に、それも忘れてしまったくらいだ。


 想像出来るだろうか、二足歩行して全力で走るカブトムシを。


「・・・・・・め、メリルさん。あれ、なんすか?」


 走り去った方向を指差しながら恐る恐るメリルさんの方を向くと、彼女も驚いた表情を浮かべている。


「あれは確かコバシリカブト、だったかな?この辺だと結構レアなはずだけど・・・・・・」

「レアってどのくらいの?」

「紅茶パックで茶柱がたつくらいかな」


 つまりありえないと言うわけか、なるほどなるほど。


「・・・・・・で、メリルさんは何しにここへ?」

「へっ!?あ、いや、いまどうしてるのかな〜って。あはははは・・・・・・」


 明らかに動揺しているメリルさん。弁明が棒読みになってるし・・・・・・


「そ、それじゃ失礼~」と速やかに部屋を出ていくのを見届けたあと、ほっと胸を撫で下ろした。


「にしても、ありゃ何だったんだ」


 1人でつぶやいてみたが、まさしくありゃ何なんだろう。

 黄色いカブトムシが二足歩行で全力で逃げてく様なんてネタ過ぎるだろう。


「ほほぅ?あたしの見るところ、あなたはつくづく運が良すぎる男のようね」


 ホッとしているそばからマホが話しかけてくる。

 何故か窓の外から顔を出しながら。


「いつの間にそんなところに移動してたんだよ」

「む?忘れているようだけどあたしは魔法の女神なんだよ?あなた達が虫に気を取られているうちに家の中と外を瞬間移動するくらいどうってこと無いのだよ」


 別に驚けない場面で勝ち誇ったっ表情のマホ。見習いのくせに生意気だ!


「ったく、お前と話すと疲れてくるな、精神的に」

「異界人のあなたに言われたかないわ!」

「そんな見習いにも言われたかないわ!」


 そう言いながらいがみ合ったが、まもなくどちらからともなくため息を吐いた。


「まぁ、こんなにいがみ合ってるほうがガキみたいだな」

「そだね。ごめんね」


 これ以上ゴチャゴチャし続けるのも体力の無駄だ、ということを彼女も把握したらしく、謝ってくる。

 こいういうところは素直みたいだな。


「・・・・・・さてと、じゃあ手っ取り早く問題解決に向かおっか?」


 少し彼女に感心していたときに、マホは少し眼つきを変えながら話題を変えた。


「んあ?問題って?」

「分からないの?あなたのことよ」


 完全に馬鹿にしたような表情で俺を指さすマホ。

 なんで?と言いそうになったけど、理由がわかった。俺の今後の異世界生活についてだ。

 危ね~、このまま言ってたらコイツに「あれ~?それでも分からないの~ん?やっぱりバカねあなたって♪」とか上機嫌で言われそうだった。考えただけでも腹立つな。


「とりあえず、あなたがこの世界にいること自体、イレギュラーすぎるって事は言わなくてもわかるよね?」

「ああ、まあそうだな」


 既に言っちゃってるわけだが。


「でも、あなたがしばらくこっちの世界にいるのであれば、1つ条件があるの」

「条件?」


 復唱すると、マホは頷いた。


 理由は大方、この世界は俺には危険すぎるから、生きるためにはなんかのルールがあるんだろう。

 そう考えながら彼女の話に耳を傾ける。


「私と契約し――――――」



 ちょぉぉおおおっと待ったァァァあああああ!!!



 俺は勢い良く立ち上がりマホに指をさしながら叫ぼうとしたが、何とか心の叫びで終わらせた。


「・・・・・・あぶねー!今、口に出したらメリルさんに聞こえちまうところだった・・・・・・!」

「人の話聞くなりいきなりどんなリアクションしてんのよ、あんたはっ!サイレント芸人かっ!」


 うるせぇー半人前っ!危うく「魔法少女(・・)はイヤァァあああ!」って発言を抑えた俺に感謝しろ!


 と言いたいが、今はこのMAXになったテンションを下げることに必死になってたため、彼女のツッコミに反論できなかった。

 ちなみに、少し想像してしまった俺は盛大な拒絶反応と吐き気に襲われている。良い子は真似しないでね、ほんとに吐きそうになるから。


「なんか勘違いしてるみたいだから言っておくけど、あたしの言う『契約』ていうのは、あなたに擬似的な憑依をして加護サポートみたいなものをするための儀式よ」

「・・・・・・ぎ、擬似?」


 ようやく拒絶反応が終わったところで疑問点が見つかった。

 擬似的な憑依ってなんのことだろう?まず憑依に擬似も真正もあるのか?


「まぁ、簡単に言っちゃえばあなたに付いて回るってことね」

「ストーカーか!?」


 俺がすぐさまツッコむと、マホが顔を真っ赤にしだした。


「っ!だ、誰がストーカーだ!?大体、あたしがなんであんたなんかに意欲興味関心態度を持たなきゃならないのよ!?」


 よっぽど慌てているのか、言ってる内容がめちゃくちゃな気がする。

 ってか、意欲ってなんだよ。危ないワードをさり気なく出すな。


「あーあー分かった分かった。イレギュラーな俺を庇うための案内人みたいな感じなんだろ、つまり」

「・・・・・・・・・・・・っ!」


 顔の赤みが無くならないまま、マホは悔しそうに唸る。その様子はわがままを綺麗にはね退けられた駄々っ子のようで、少し可愛らしくみえる。


 しかし、彼女の提案は悪くないっていうのもまた事実だ。世界の状況を詳しく教えてもらえる案内人なんて都合のいいことなんてこのチャンス以外、そうそう見つからない。むしろ今後一切ないと言っても過言ではないだろう。


「そうだな~。んじゃ、宜しく頼んでもいいか?」


 考える素振りをしてから、握手を求めてみる。

 まあ、どうせ「ふんっ!この提案をしたあたしに感謝することね!」とかってツンデレ発言されそうだけど。


「よ、よろしく・・・・・・」


 と思ったら、予想に反して素直に差し出した手を握ってきた。

 このくらい素直だと子供っぽくて接しやすいんだけどな・・・・・・

 すると握った手から何かが体に流れていく感覚を覚える。これが契約による《憑依》が完了した証なんだろう。


 と思ったのはつかの間のことだった。


コンコン、コンコン



 ドアをノックする音が部屋の中に響いた。


「「・・・・・・っ!」」


 ビクッと反応した勢いで握手をした手を慌てて放し、ドアの方を見る。

 また怪しまれるようなことをしちまったか?


『・・・・・・私よ』


 嫌な考えが頭をよぎった時、ドアの奥から声が響いた。この声の主は・・・・・・


「ら、ライナ・・・・・・?」

『ええ。入っていい?』


 メリルさんではなく、妹のライナらしい。何かあったのだろうか?


「あ、ああ。いいけど・・・・・・」


 とりあえずベッドの上に座って許可を出すと、ガチャという音とともにライナが何かを抱えて入ってきた。

 あれは・・・・・・本?


「気分はどう?」

「ああ、だいぶマシになったよ」


 最初に会った時と同じ質問を投げかけられたが、俺は落ち着いて答えた。

 俺の返答を聞くと、彼女はクールな雰囲気を保ったまま、机の上に本の束を置いた。


「・・・・・・それは?」


 気になって仕方がなかったので、本を見ながら訊いてみる。


「この世界についての本。教科書が大多数だけど」


 ライナは一度俺に視線を向けると、本の束の上にポンと手を乗せる。


「私達、これから少し出かけるからこれ読んで少し学んでおいて」


 教科書か・・・・・・確かに口で説明するより速いし、分かりやすいと判断したんだろう。

 これだけあれば、ある程度の情報を得ることができるだろう。


「へぇ~、ありがとうな」


 俺は少し喜びながらライナに礼を言う。


「・・・・・・れ、礼を言うならお姉ちゃんに言って。私はそれに従っただけ」

「ん、そうか?」


 ライナは顔を背けながら言い切った。

 なんだ?コイツもマホ寄りのキャラか?


「彼だって、そうするはずだから・・・・・・」


 俺に背を向けながらライナが何かを言ってるみたいだが、声が小さすぎてよく聞こえない。


「ん?なにか――――――」

「何も!じゃあ、またあとで」


 訊いてみようとするが、すっぱりと会話を切ったライナはそのまま部屋を出た。


「・・・・・・一体何だったんだ?」


 頬をかきながらマホの方を見てみるが、彼女は首をふる。しかしその目は何かを知っている感じであった。

これで一人部屋コント(?)は終了です。

ユウく~ん、そろそろお外遊びの時間ですよ~w

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