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春の声

作者: 井藤 莉子

雪が舞っている


そんな景色でも春を探すことはできる。


例えば

朝起きたときの明るさとか


例えば

部活中に見る明るさとか


例えば

茶色が混ざってきている雪の色とか。


例えば

三年生がいない校舎とか。


例えば



「卒業式練習とか。」



明日が卒業式。

三年生は受験がない人は参加の卒業式練習をしてる。


昨日担任に呼ばれて向かった先は体育館。


今日の練習のために会場準備をすると言われ、涙が出そうになった。



もう、先輩に会うことができるのは卒業式だけだ。


そういわれた気がしたから。



けい。手動かして。」


「ごめん、ごめん。李維りいは張り切ってるね。寒くない?」


「寒いから早く終わらせたい。部活いきたいしさ。」


「ああ。李維くんは部活大好きだからね~」


「慶も好きだったじゃん。部活。」



それは先輩が居たから。


先輩が引退して、なんとなく続けてる部活ももしかしたら意味がなくなるのかも知れない。



「告白するの?」


「しないよ。絶対しない。」



もし、この気持ちを先輩に伝えてしまったら今まで頑張ってきたことが無駄になる。


先輩は優しいから、



「伝えたら、どう転んでも泥沼。そんなのやじゃん。」



この気持ちはしまっておく、

そう決めてたから。


気づいたときから、ずっと決めてる。



「泣きたくなったらいつでも貸すよ?」


「借りないから。」



李維は私がこの気持ちに気づいてからずっと隣で聞いててくれた。

だから、李維には話さなきゃならない。


これが私なりのけじめ。



「明日、私学校来ないから。最後だって思ったら、決心揺らぎそう。」


「そうか、」






「で、なんで李維も此処にいるわけ?」



卒業式をサボった私は先輩と出会った場所にいた。


隣にある体育館では卒業式が行われている。



「ここだと思ったから。」


「同じクラスで二人も休んだらばれるじゃない。」


「最初からばれてるよ。慶目立つから。」



真面目な李維が卒業式をサボってまで来てくれた。


いままで泣けなかったのに急に実感が湧いてきた。



「もう、先輩じゃなくなるんだよね。」


「慶にとってはそうなるね。」



約30m先にある安土、


今は置いていない的に向かって矢を射る先輩の横顔が見えるようだ。



不意に視界が暗くなった。

後ろから抱き締められて目を塞がれているみたい、だ…



「李維!?」



李維は何も言わない。

けれどその私とは全然違う体格に、

わたしのより二回りくらい大きな手に、


思わず涙がこぼれた。



「大丈夫。慶ならきっと『お義兄さん』って呼べる。先輩、妹ほしいっていってたし、」


「わかってるよ!わかってる、」



どんな望んでも私の手には入らないものだった。


もうすでに私の姉が手にいれたものだった。


姉は今、先輩と一緒に卒業式に出席している。



「李維、」


「何?」


「ありがと。側にいてくれて。」




きっと明日から先輩をお義兄さんって呼べる。


そのためにいま、泣いておく



この思いは今日に置いていく。




明日から、天気がよくなるらしい。



雪が消え、先輩にあったこの弓道場にも花が咲く。


きっと大丈夫。


今日の青空から

私には


新しい、春の声が聞こえてるから。




読んでくださりありがとうございます。

なんとなく天気が良い朝に書きたくなりました。

誤字等ありましたらお知らせ下さい。

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