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婚約破棄されたので復讐しますが、隣国王子が過保護すぎて計画が全部溺愛に上書きされる件

作者: 結城斎太郎
掲載日:2026/05/07

 ――あぁ、やっぱりこうなるのね。

 煌びやかな舞踏会の中央で、私は静かに笑っていた。

「リシェル・フォン・エルディア。お前との婚約は、今この場をもって破棄する」

 高らかに宣言したのは、私の元婚約者である第一王子、セドリック。

 その隣には、しなだれかかるように寄り添う女――ミレイナ・ローゼ。

 ……分かりやすい構図だこと。

「理由を、お聞きしても?」

 私の声音は、驚くほど冷静だった。

「お前は冷酷で愛のない女だ。それに比べてミレイナは優しく、俺を支えてくれた」

 はい、出ましたテンプレ。

 けれど、私は知っている。

 彼が夜な夜な、ミレイナの部屋に通っていたことも。

 その証拠も、全部、揃っている。

「つまり、不貞行為を働いたのは殿下ご自身、ということでよろしいのですね?」

「なっ……!?」

 会場がざわつく。

 ミレイナがわざとらしく涙ぐむ。

「ひどい……リシェル様、そんな言いがかり……!」

「言いがかりではありませんわ」

 私は指を鳴らす。

 すると、控えていた侍女が書簡を差し出した。

「こちらは殿下とミレイナ様のやり取り。愛の言葉と密会の日時が、丁寧に記されています」

「ば、馬鹿な……!」

 顔色を失うセドリック。

 それでも彼は、強引に言い切った。

「だとしても、お前のような女は王妃に相応しくない!」

「……そうですか」

 私は小さく息を吐いた。

 そして――笑った。

「では、その婚約破棄、喜んでお受けいたします」

 ざわめきが、一瞬で静寂に変わる。

「ただし――」

 私は一歩前に出る。

「王家の名誉を傷つけた責任、そして私への侮辱。その代償は、必ず払っていただきます」

 その瞬間、空気が凍りついた。

 ――復讐開始、ね。

 ◆

「……面白い女だ」

 低く、愉しげな声がした。

 振り返ると、そこには見知らぬ男。

 黒髪に金の瞳。鋭いのに、どこか優しさを含んだ視線。

「あなたは?」

「隣国ルヴェリアの王太子、アルヴィンだ」

 ……は?

 ちょっと待って、今なんて?

「先程の一件、すべて見ていた。実に痛快だった」

「それはどうも」

「で、これからどうする?」

「決まっております。復讐ですわ」

 私が即答すると、彼はくつくつと笑った。

「いいな。ならば――俺が協力してやろう」

「は?」

「その代わり」

 彼は、私の手を取る。

 強引なのに、不思議と嫌じゃない。

「お前は俺のものになれ」

「……はぁ!?」

 何この人、話飛びすぎじゃない?

「誤解するな。正式な婚約ではない。だが、お前を守る権利は欲しい」

 真っ直ぐな瞳だった。

 嘘がない。

 だからこそ、厄介だ。

「……復讐のための取引、ということですか?」

「そうだ」

「なら、受けて立ちます」

 こうして私は、隣国王子という強力すぎる後ろ盾を得た。

 ――ついでに、過剰な溺愛も。

 ◆

「リシェル、寒くないか?」

「平気です」

「そうか。ならこの外套を着ろ」

「平気だと言っているのですが」

「遠慮するな」

 ……めんどくさい。

 というかこの人、距離感がおかしい。

 復讐の打ち合わせ中なのに、やたら近いし甘い。

「……本当に協力する気あります?」

「もちろんだ。お前の望みはすべて叶える」

 さらっと言うな。

 心臓に悪い。

 ◆

 復讐は、あっけないほど順調に進んだ。

 セドリックの不正資金の証拠。

 ミレイナの裏での悪事。

 すべて、アルヴィンが用意してくれた。

「ここまで揃えば、あとは公開するだけだな」

「えぇ」

 私は静かに頷く。

 ――終わる。

 あの屈辱も、全部。

 ◆

 そして、断罪の日。

「セドリック第一王子、及びミレイナ・ローゼ。国家反逆及び不貞の罪により、爵位剥奪と追放を命ずる」

 王の宣告が響く。

「そんな……! リシェル、助けてくれ!」

 情けない声。

 あの時の威厳は、もうない。

「お断りします」

 私は微笑んだ。

「自業自得ですもの」

「リシェル様ぁ……!」

 泣き叫ぶミレイナ。

 その姿に、何の感情も湧かなかった。

 ただ、終わった――それだけ。

 ◆

「これで復讐は完了だな」

 アルヴィンが隣で言う。

「えぇ」

「では、次は俺の番だ」

「……何がです?」

 嫌な予感しかしない。

「お前を正式に娶る」

「は?」

「取引は終わった。だが俺は、お前を手放す気はない」

 真剣すぎる顔で言うな。

「私は――」

「嫌なら断れ」

 静かな声。

 でも、その奥にあるのは。

「だが、その時は全力で口説く」

 ……逃げ場、ないじゃない。

 私は小さく笑った。

「……本当に、面倒な人ですね」

「よく言われる」

「ですが」

 私は彼の手を取る。

「嫌ではありませんわ」

 一瞬、彼が目を見開いた。

 それから、蕩けるように笑う。

「なら決まりだな」

 ――こうして私は、復讐の果てに。

 とんでもなく厄介で、

 とんでもなく優しい王子に捕まったのだった。

 ◆

 ――これは、婚約破棄から始まった物語。

 だけど結末は。

 復讐でも、破滅でもなく。

 少しだけ甘すぎる、幸せな未来だった。

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