第2話:地下世界の世紀末
「さあ自己批判なさい!!徹底的に自己批判なさい!!。あなたは薄汚い羽虫よ!!。」
地下妖精帝国の中央広場、その中心で一人の妖精が囲まれ、同じ妖精たちに棒で殴られている。
彼女の名前はクーニャ、妖精帝国始まって以来の不良妖精である。
「こんな小バエの下位互換が生きているなんて世界の恥よ。酸素様に今すぐ謝罪なさい!!」
地下妖精帝国の掟では、素行不良のものは広場に引き出して罵声を浴びせながらボコすという決まりがあった。
刑を執行する者は罵倒のセンスが良いものが選抜され、皆の憧れの的である。
「ちょっ痛い痛いやめっ、やめてよ!!ゴフッ...」
棒がいい感じに入ったようだ、クーニャと呼ばれる妖精は悶絶してのたうち回る。
妖精。それは異世界から召喚されたる勇者を導く役割を持った種族である。
強大な力を持った勇者であれど、来たばかりの世界で生き抜くのには大変だ。
したがって、ガイド役として妖精がお供をするのがこの世界の決まりであった。
当然ながらガイド役を務める妖精にはこの世界に関する膨大な知識を求められる。
しかしながら、クーニャはそのような勉強はすべてサボっていた。
いつしか妖精族の恥さらしとしてみなされ、ことあるごとにボコボコにされていた。
1時間程どつきまわされた末にクーニャは解放された。
「ううう...。なんてひどい国なの...。」
地下妖精"帝国"とはいうものの、その実態は悲惨である。
もともとは地上にあった国なのだが、貧弱な体格の妖精は地上の生存競争に勝てなかった。
アリやカエルといったライバルと壮絶な戦いを繰り広げるも、人間様によって一網打尽に...。
「お前たちを地下へ追放する!!!」という宣言と共に地下世界へ追いやられた。
一応の救済措置として、地下世界は妖精の領土として認められたが、代わりに勇者が来るたびに妖精ガイドを差し出すこととなった。
地下生活を強いられるフラストレーションからストレスがたまり、その発散のために同族に暴行を加える行為が娯楽として定着。
いつしか掟の名のもと「とりあえずあいつ気に入らないからボコっとくか」というノリで適当に刑が執行されるようになってしまった。
「クーニャちゃん大丈夫?ファイトだよっ!!」
一昔前の清純派ヒロインみたいな言い回しで励ましてきたのはカーラ。
妖精族では珍しく多少まともな性格をしており、クーニャの唯一の友人であった。
「カーラありがとう。心配してくれて。あんたって本当にいい奴ね。」
「うんうん。よかった。はぁ...、なんて私は優しいんだろう。まるで天使みたい。」
「ごめん、なんかこう...違う。いや、まあいいんだけど。」
自分の世界に入ってしまった友人をよそにクーニャは考える。
いつか自分もガイドとして地上に出る日がやってくるだろうかと。
こんな陰気な帝国にいるよりも地上に出た方が幸せなのかもしれない。
だが、不良妖精たる自分にその役割が回ってくるとは思えない。
「クーニャ、女帝様がお呼びだ。今すぐ来なさい!!。」
いや、回って来た。この唐突な呼び出しは間違いなくそうだろう。
「クーニャちゃん、おめでとう。とうとう地上にいけるね。嬉しいなぁ...。お土産をよろしくね、たくさんでいいから!!。」
友人も自分を祝福してくれている。なんか若干欲望を感じるが、まあいいだろう。
まあいずれにせよ断る理由はない。クーニャは妖精女帝の城へと移動していった。
---地下妖精帝国城 玉座の間---
クーニャは王座の間へとたどり着いた。
今まで地上に行った妖精で、戻ってきたものはいない。
口には出さないものの、皆薄々感づいていた。「地上に出た妖精は生きては戻れない」と。
しかし、この陰気臭い地下世界で一生を終えるのか、あるいは生きては帰れなくとも地上に出るのが良いのか。
クーニャの答えは決まっていた。「私は外の世界を見てみたい」と。
そんなクーニャの思いをよそに女帝は口を開いた。
「いいかい、お聞きクーニャ。お前は神聖なる儀式、アミダ=クジによって選ばれた。地上に行き勇者と共に、人間様の役に立つのだ。」
「はい女帝様。しかと心得ました。必ずお役に立って見せます。」
「うむ。思えばお前はろくに勉強もせず、妖精族の恥さらしであった。まあサンドバッグとしては優秀であったな、そのことを誇りに思うがいい。いかに出来が悪かろうとお前は他の下民どもと同じく帝国の一員だ。地下妖精帝国への恩義は死んでも忘れるではないぞ。」
「...」
「さっ、もう行くがいい。勇者を待たせてはいかんだろうからな。」
「ハイ、ヨロコンデ。」
こうして謁見は終了した。
---地下妖精帝国 地上行き通路前---
衛兵に案内され、クーニャは地上へ続く通路へ向かっていく。
妖精は地下に住むことが決められており、許可を得ずに地上に出た場合は、見つかり次第人間によって引きちぎられる。
そのような愚か者が出ないように、普段通路は閉鎖されている。
だが今回のように勇者のガイド役となる妖精が選ばれた場合は別だ。この通路を通って、地上に向かうことが許される。
「今までありがとうねカーラ。またどこかで会いましょう。」
そうは言うものの、生きて帰ることはもうないだろう。帝国に未練はないが、唯一の友人と別れることがただ心残りであった。
「うん...。さようならクーニャちゃん。お土産...絶対だよ...。」
これは「絶対に生きて戻ってね。」という意味で言っているのか、それとも単に自分の欲望のことしか頭にないのか。
相変わらずこの友人が考えていることは分からない。
しかし、他の妖精族は見送りにすら来なかったことを考えると、大分マシである。
こうして、クーニャは地上に向かっていった。
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