第9話:注文が多い料理店
教えてもらった方角に進んでいくと、小高い丘があった。
その丘の上に一軒の西洋風の建物があった。
- レストラン 山猫 -
「よし、ようやくついた。楽しみだな、なんでもいいから早くたべたい。」
新太郎はドアを開けて中に入っていった。
すると、ドアを開けた先にはまたドアがあり、何か文字が書いてある。
- この店は注文の多い料理店です -
「そうか、それは良かった。」
さきに進むと、またドアがあり、文字が書いてある。
- とにかく注文が多いでしょうが、我慢してください -
「いや、おかしい。注文が多くて我慢するのは店で"働く側"だろ。」
だが、そこで新太郎は、はっと気が付いた。
「そうか、俺が入ったのは従業員用の入り口だ!!、客の入り口じゃなかったんだ!!」
そういえばこの店に来るのは初めてで、お腹がすいていたので慌てて入ってしまった。
入る前によく確認しておくべきであった。
先ほどの「注文の多い料理店です」というのも、「お前ら客からの注文が多いから覚悟して働けよ」という意味だろう。
「しょうがない、引き返すか。あれ?」
ドアを開けようとするものの、開かない。
「ああそうか、一度出勤すると逃がさないタイプの店か。従業員が逃亡しようとするほどブラックなんだな。」
仕方なく進むとまたドアがあった、例によって文字が書かれている。
- ここで髪を整えて、履物の泥を落として下さい -
「衛生管理は大切だからね~、まっ、俺は客だから関係ないけど。」
- 武器はここにおいてください -
「このブラック会社じゃ錯乱した従業員が何するか分からないからね、当然だろう。」
- くつとコートと帽子をとってください -
「この後で、店の制服に着替えるんだな。」
- ネクタイピン、眼鏡、おさいふ、金物類、そのほかとがったものは置いて行ってください -
「なんてひどいブラック会社だ、こうやって細かいルールを作って従業員を縛り上げ、いじめているんだな。」
- 壺の中のクリームを顔や手足に塗ってください -
「こういうのを『社員を気遣った福利厚生の一環ですぅ』とか言って求人の際にアピールしてるんだろ。安い経費で済ませようという意図がみえみえだな。」
- クリームは耳にもちゃんとぬりましたか -
「あれか、クリームを少しでも塗らせて、福利厚生の利用実績を増やそうという事か。ひどい会社だよ。」
- 料理はもうすぐで出来ます。15分もかかりません。瓶の中の香水を頭に振りかけてください -
新太郎は瓶の中の香水を嗅いでみた、強烈に酸っぱい香りが広がった、どう考えても香水ではない。酢だ。
「まったく意味が分からない、『料理はもうすぐできる』と言いながら、一方で『15分かかる』とも書いてある。それにこのわけの分からない香水は一体...。」
その時、新太郎は気が付いた。すべて理解できたのだ、この恐るべき料理店の真実に。
「精神破壊実験だ...。『すぐできる』と言いながら『15分はかかる』という矛盾した情報を与え、香水といいながら酢を自分の頭にかけさせる。意味が分からないことを無理やりやらせて精神に多大なストレスを与え、破壊する。そして最終的には、何も考えずに命令に従うだけのロボットになってしまうんだ。そうか、これがブラック会社の洗脳術なんだな。」
新太郎は激怒した、空腹であったがそんなことはもうどうでもいい。
従業員をいじめ、挙句の果てには精神を破壊してただ働くだけの労働マシーンへと改造するブラック飲食店。
そんな店があっていいはずがない。
「許さん、許さんぞ店長!!。皆〇しにしてやる!!」
ドアを蹴破りながら、どんどん奥へと入っていった。
◇
「ま、まずいよ兄ちゃん、あいつこっちに迫ってくるよ!!。」
新太郎のことを別室で監視していた二匹の猫が慌てだした。
透視魔法を使って監視をしていたのだが、自分たちの想定とは異なる動きをしている。
「な、何故だ。今頃奴は防具と武器をすべて捨て、無防備になっているはず。しかもクリームには弱体化作用があるのに塗っていないだと!?」
「驚いている場合じゃないよ!!、どうするの!?、弱ったところを襲撃するって計画だったじゃん!!。」
「あ...あわてるな。まだなんとかな...」
その時だった。二人のいた部屋のドアが勢いよく吹き飛んだ。
ドアの向こう側からは凄まじい威圧感を放つ人間、すなわち新太郎が立っていた。
「お前が店長か?」
兄猫の方を向いて新太郎は尋ねた。
怒髪冠を衝くがごとき阿修羅の表情で。
「ち、違います...。わたしはただの」
「そうです。こいつが店長です。」
「!?」
弟猫の突然の裏切りであった。
自分だけは助かってやろう、そういう事だろう。
「オイふざけんな弟!!、お前裏切りやがったな!?」
「勇者様、今の見ましたか?、こうやっていじめられてきたんです!!」
「てめぇ!、おまえだってグルだっただ...フグゥッ」
突如、兄猫は新太郎によって首をつかんで持ち上げられた。
ものすごい形相でにらみつけられている。
「ごめんなさい勇者様ぁ、ほんとはこんなことしたくなかったんです!!。でも上の方からやれと言われたんです!!。信じてください!!」
「言えっ!!、誰からの指示だ!!」
「あなたが『猫・パンパパ・ド・カレー』名前を付けたあいつです、あの猫からの指示なんです、ほんとですぅ。」
そういえば、このブラック飲食店に行くように勧めたのもあの猫だった。
全ては仕組まれたことだったのだ、新太郎はようやく気が付いた。
「今すぐ猫・パンパパ・ド・カレーの元に案内しろ!!、断ったら分かっているな!!」
「はいいいい~、今すぐご案内します!!」
兄猫と弟猫を先頭に新太郎は走りだした。すべての黒幕、猫・パンパパ・ド・カレーを倒すために。
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