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第1話:ドナドララバイ

伊勢新太郎(いせしんたろう)は、東京湾水路沿いのレストランで酒を飲んでいた。

酔った勢いで調子にのり、「よーしソフトドリンク飲んじゃいまぁ~す。」といって水路へダイブ。

結果、水没していたトラックに頭を強打して死亡した。享年26歳。あまりにも馬鹿すぎる死であった。


次に目覚めると、彼は今まで見たことも無いような美しい宮殿の中にいた。

自分は魔法陣の中心におり、周りはローブをきた胡散臭い野郎どもが取り囲んでいる。


「おお...ようやく成功したぞ...。よかった、やっと生きている状態で召喚できた。」


「今まで何回"残骸"を見させられたことやら。ホンマ腹立つわぁ~。」


「全くだ!!。こっちは休憩無しでやっているってのによぉ!!。」


「な~にが救世主召喚の儀式だ。不眠不休で働く俺たちの方を救ってほしいよ。」


目覚めた瞬間から見ず知らずの連中が罵声を浴びせて来る。

自分は何に巻き込まれているのか理解できない。というか自分こそ助けてほしい。

仕方がないので状況を打開するため、自分の方から口を開くことにした。


「いや~皆さん。どうもお疲れ様です。なんか俺のために色々してくれたみたいですけど、全然状況が理解できていないんですよねぇ~。あっ、いやその、あなた達が何かをしてくれたっていうのは理解していますよ。ただね、ただ、状況がのみ込めていないんです。まあ酒を飲んだついでに、酒にも飲まれてしまって、それからの記憶がないと言いますか。いや何かをしてくれたっていうのだけは理解できているんです。」


心なしか自分を見つめる視線はどんどん厳しくなっている。

この場を収めるためにはどうしたらいいのだろう。

とりあえず相手が何を考えているのかを確認しなければならない。

正直に聞いてみようと新太郎は考えた。


「怒らないでくださいね。質問です。もしかして怒ってます?」


次の瞬間、彼の顔には拳がめり込んだ。

召喚士達は倒れた彼を王の元へと引きずっていった。



---神聖帝国 ハンバルグ城内 王座の間---


「おお勇者よ、よく来て...いや、どうしたのその顔。マジで何があったん?」


「ああ気にしないでください。ちょっと自分の心に正直になっただけです。」


自分の心に正直になってこんな顔になるとかどういう奴だよ。と王様は思った。

だが待ちわびた救世主の登場だ。いったんは気にしないでおくことにした。


「して勇者よ。お主に頼みがあるのだが。」


「まあ、話だけなら聞いてあげますよ。少しだけなんですからね?感謝してくださいよ?特別ですからね?」


「なんか恩着せがましいのが腹立つな。まあいいか。」


ふぅ、と息をつくと王様は話を始める。


「勇者よ、今我が帝国は滅亡の危機に瀕しておる。本来は我ら自身で対処すべきなのじゃが、この危機を乗り切るにはある宝物が必要でな。その宝物は異世界から来た人間でなければ探せないのじゃ。だから頼むどうか力を貸してくれんか。」


「よし。約束通り話を聞いたんで帰りますね。それじゃあ。」


「いや待ってよ!!。なんで!?、ねぇ、なんでそんなに薄情なの!?」


「いや、だってこの世界に特に思い入れはないですし、そもそもあなたは赤の他人ですし。」


「いやそうだけどそうじゃないでしょ!?。お願いだから言う事きいて!!、いい子だから!!。」


「はいはい、怒らない怒らない。王様はいい子、いい子。落ち着きましょうねぇ~。」


王は激怒したが、あることを思いつく。

やりたくはないが、この会話の流れで勇者を説得する方法を思いついたのだ。

自分の尊厳を犠牲にはするが仕方がない。

勇者はそう簡単には召喚できないし、事態は一刻を争う。


「ううっぐすっ、ねぇゆうしゃ?ぼくたからものさがしてほしいの、そしたらぼくいっぱい、いっぱいしあわせなんだよ。」


「もぉ~しょうがないでちゅねぇ~王様はわがままなんでちゅから~。いいでちゅよぉ~。さがしてあげまちゅよぉ~。」


「うん、ありがとね。それじゃあ...ゆうしゃには『ちぃと』のうりょくがあるからそれをいっしょにみたいな...。」


「あっもう普通にしゃべってもらって大丈夫ですよ。王様。」


「...っホンマこいつは。」


何故だろうこの男と話をしていると、完全に相手のペースに持っていかれる。

だが、今まで召喚してきた勇者とは明らかに何かが違う。

もしかして、この男こそ我らの帝国を救ってくれる男ではないのか。

いずれにせよ、この男の「チート能力」を確認すれば分かることだ。


「では勇者よ。アビリティオープンというがよい。それでお主の能力が分かる。」


「アビリティオープン」


そこは普通に言うのかよ...。と王様は思った。

しかし、空中に浮かび上がった文字には信じられないことが書いてあった。


 ― 誰かと漫才を繰り広げる能力 ―


うーん。何だ、この、ゴミだな。と王様は思った。

今までやって来た勇者は「火を操る」とか「風を起こす」とかそういう何かすごい能力を持っていた。

だが、この男が持っているのはまごうことなきゴミスキルである。

もういいや、さっさとコイツは追い出すか、と王様は決意した。


「よし、勇者よ。以上で説明は終わりだ。後はここに用意した『冒険者スターターキット』をもって出ていくがいい。ていうかすぐ出ていけ。」


「あの、何か俺のスキルが気に入りませんでしたか?」


「あのね、スキルもだけどね。お前のその態度も原因なんだよ、理解できてる?。」


「いえ、全く。」


「...。そのキットの中にある地図に、お前を導く妖精との合流場所が書いてある。後のことは全部妖精に聞け。もうお前のことは知らん。」


「そんな!。俺のことは認知してくれないのですか?。」


「その言い方マジでやめろ。衛兵!!今すぐコイツを追い出せ!!」


衛兵に連行され、新太郎はあっけなく叩き出された。

城外に広がる街は活気にあふれており、RPGでよく見るような中世ヨーロッパ風の世界だったのだが、そんなことはどうでもいい。

見ず知らずの世界にいきなり放りだされたのである。今彼にとっての問題は「明日からどうやって生きていこう」であった。


そういえば妖精がいるから全部頼っていいよと王様は言っていた。

ああそうか、それじゃあ全部そいつに任せればいいのか。そう考えると不思議と心強くなってきた。

こうして彼は、自分の仲間...もとい新たな犠牲者を求めて歩いて行った。

ブックマークや評価があるとうれしいにゃん♡

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