第1話:ドナドララバイ
伊勢新太郎は、東京湾水路沿いのレストランで酒を飲んでいた。
酔った勢いで調子にのり、「よーしソフトドリンク飲んじゃいまぁ~す。」といって水路へダイブ。
結果、水没していたトラックに頭を強打して死亡した。享年26歳。あまりにも馬鹿すぎる死であった。
次に目覚めると、彼は今まで見たことも無いような美しい宮殿の中にいた。
自分は魔法陣の中心におり、周りはローブをきた胡散臭い野郎どもが取り囲んでいる。
「おお...ようやく成功したぞ...。よかった、やっと生きている状態で召喚できた。」
「今まで何回"残骸"を見させられたことやら。ホンマ腹立つわぁ~。」
「全くだ!!。こっちは休憩無しでやっているってのによぉ!!。」
「な~にが救世主召喚の儀式だ。不眠不休で働く俺たちの方を救ってほしいよ。」
目覚めた瞬間から見ず知らずの連中が罵声を浴びせて来る。
自分は何に巻き込まれているのか理解できない。というか自分こそ助けてほしい。
仕方がないので状況を打開するため、自分の方から口を開くことにした。
「いや~皆さん。どうもお疲れ様です。なんか俺のために色々してくれたみたいですけど、全然状況が理解できていないんですよねぇ~。あっ、いやその、あなた達が何かをしてくれたっていうのは理解していますよ。ただね、ただ、状況がのみ込めていないんです。まあ酒を飲んだついでに、酒にも飲まれてしまって、それからの記憶がないと言いますか。いや何かをしてくれたっていうのだけは理解できているんです。」
心なしか自分を見つめる視線はどんどん厳しくなっている。
この場を収めるためにはどうしたらいいのだろう。
とりあえず相手が何を考えているのかを確認しなければならない。
正直に聞いてみようと新太郎は考えた。
「怒らないでくださいね。質問です。もしかして怒ってます?」
次の瞬間、彼の顔には拳がめり込んだ。
召喚士達は倒れた彼を王の元へと引きずっていった。
◇
---神聖帝国 ハンバルグ城内 王座の間---
「おお勇者よ、よく来て...いや、どうしたのその顔。マジで何があったん?」
「ああ気にしないでください。ちょっと自分の心に正直になっただけです。」
自分の心に正直になってこんな顔になるとかどういう奴だよ。と王様は思った。
だが待ちわびた救世主の登場だ。いったんは気にしないでおくことにした。
「して勇者よ。お主に頼みがあるのだが。」
「まあ、話だけなら聞いてあげますよ。少しだけなんですからね?感謝してくださいよ?特別ですからね?」
「なんか恩着せがましいのが腹立つな。まあいいか。」
ふぅ、と息をつくと王様は話を始める。
「勇者よ、今我が帝国は滅亡の危機に瀕しておる。本来は我ら自身で対処すべきなのじゃが、この危機を乗り切るにはある宝物が必要でな。その宝物は異世界から来た人間でなければ探せないのじゃ。だから頼むどうか力を貸してくれんか。」
「よし。約束通り話を聞いたんで帰りますね。それじゃあ。」
「いや待ってよ!!。なんで!?、ねぇ、なんでそんなに薄情なの!?」
「いや、だってこの世界に特に思い入れはないですし、そもそもあなたは赤の他人ですし。」
「いやそうだけどそうじゃないでしょ!?。お願いだから言う事きいて!!、いい子だから!!。」
「はいはい、怒らない怒らない。王様はいい子、いい子。落ち着きましょうねぇ~。」
王は激怒したが、あることを思いつく。
やりたくはないが、この会話の流れで勇者を説得する方法を思いついたのだ。
自分の尊厳を犠牲にはするが仕方がない。
勇者はそう簡単には召喚できないし、事態は一刻を争う。
「ううっぐすっ、ねぇゆうしゃ?ぼくたからものさがしてほしいの、そしたらぼくいっぱい、いっぱいしあわせなんだよ。」
「もぉ~しょうがないでちゅねぇ~王様はわがままなんでちゅから~。いいでちゅよぉ~。さがしてあげまちゅよぉ~。」
「うん、ありがとね。それじゃあ...ゆうしゃには『ちぃと』のうりょくがあるからそれをいっしょにみたいな...。」
「あっもう普通にしゃべってもらって大丈夫ですよ。王様。」
「...っホンマこいつは。」
何故だろうこの男と話をしていると、完全に相手のペースに持っていかれる。
だが、今まで召喚してきた勇者とは明らかに何かが違う。
もしかして、この男こそ我らの帝国を救ってくれる男ではないのか。
いずれにせよ、この男の「チート能力」を確認すれば分かることだ。
「では勇者よ。アビリティオープンというがよい。それでお主の能力が分かる。」
「アビリティオープン」
そこは普通に言うのかよ...。と王様は思った。
しかし、空中に浮かび上がった文字には信じられないことが書いてあった。
― 誰かと漫才を繰り広げる能力 ―
うーん。何だ、この、ゴミだな。と王様は思った。
今までやって来た勇者は「火を操る」とか「風を起こす」とかそういう何かすごい能力を持っていた。
だが、この男が持っているのはまごうことなきゴミスキルである。
もういいや、さっさとコイツは追い出すか、と王様は決意した。
「よし、勇者よ。以上で説明は終わりだ。後はここに用意した『冒険者スターターキット』をもって出ていくがいい。ていうかすぐ出ていけ。」
「あの、何か俺のスキルが気に入りませんでしたか?」
「あのね、スキルもだけどね。お前のその態度も原因なんだよ、理解できてる?。」
「いえ、全く。」
「...。そのキットの中にある地図に、お前を導く妖精との合流場所が書いてある。後のことは全部妖精に聞け。もうお前のことは知らん。」
「そんな!。俺のことは認知してくれないのですか?。」
「その言い方マジでやめろ。衛兵!!今すぐコイツを追い出せ!!」
衛兵に連行され、新太郎はあっけなく叩き出された。
城外に広がる街は活気にあふれており、RPGでよく見るような中世ヨーロッパ風の世界だったのだが、そんなことはどうでもいい。
見ず知らずの世界にいきなり放りだされたのである。今彼にとっての問題は「明日からどうやって生きていこう」であった。
そういえば妖精がいるから全部頼っていいよと王様は言っていた。
ああそうか、それじゃあ全部そいつに任せればいいのか。そう考えると不思議と心強くなってきた。
こうして彼は、自分の仲間...もとい新たな犠牲者を求めて歩いて行った。
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