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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。

好きなって、ごめん。

作者: 夕凪詩音
掲載日:2026/03/28

夕焼けに染まる帰り道。

 制服の影が、いつもより長く伸びていた。

 卒業式の一週間前。

 来週になれば、もうこの道を一緒に歩くこともなくなる。

「ねえ、美月」

 隣を歩く白石陽菜が、不意に口を開いた。

「好きな人に、告白しなくていいの?」

 軽い調子だった。

 でも、その一言が、紺野美月の胸の奥に引っかかった。

「……なんで急にそんなこと言うの、陽菜」

「だって、明日で最後じゃん。もう会えないかもしれないよ?」

 何でもない顔で言うから、余計に苦しかった。

 ——もう会えないかもしれない。

 その言葉が、頭の中でぐるぐる回る。

 言わなきゃ。

 言わないと、終わる。

 このまま何も言えないまま、ただの“友達”で終わる。

「ねえ、誰なの?」

 陽菜が、少しだけ身を乗り出す。

「好きな人」

 無邪気な顔だった。

 本当に、何も知らないみたいに。

 心臓がうるさい。

 逃げたいのに、逃げ場なんてどこにもない。

 ——今しかない。

「……陽菜」

 一度、名前を呼ぶ。

 それだけで、喉が締まる。

「え?」

 陽菜が首をかしげる。

 その顔を見た瞬間、もう止まれなかった。

「……好きな人、陽菜だよ」

 一瞬、風の音だけが残った。

「……え?」

 陽菜の足が止まる。

 美月は、笑えなかった。

 冗談だよ、なんて言えなかった。

「ほんとに?」

 その声は、いつもより少し低くて、少し遠かった。

「……うん」

 沈黙が、痛い。

 さっきまで当たり前だった距離が、急に遠く感じる。

「そっか」

 それだけだった。

 それからの時間は、やけにあっさりしていた。

「じゃあね、陽菜」

「……うん、じゃあね、美月」

 振り返らなかった。振り返れなかった。


 その日から、陽菜は少しだけ変わった。

 廊下ですれ違っても、目を合わせなくなった。

 話しかければ、ちゃんと返してくれるけど、どこかぎこちない。

 部活のみんなで集まったときも、

 陽菜はいつも通り笑っているのに、

 美月を見るときだけ、ほんの少しだけ表情が曇る。

 それが、わかってしまうのが、つらかった。


 卒業式の日。

 体育館は、春の匂いがした。

 名前を呼ばれて、返事をして、立って、座って。

 全部が終わっていく。

 終わってしまう。

 視界の端に、陽菜がいる。

 でも、美月はもう話しかける勇気がなかった。


 校門の前。

 写真を撮る声があちこちで響いている。

 美月は、少し離れた場所で、それを眺めていた。

 そのとき、不意に名前を呼ばれた。

「——美月」

 振り向くと、陽菜がいた。

 少しだけ息を切らして。

「……あのさ、美月」

 言葉を探しているみたいだった。

 でも、その先を聞くのが怖くて、美月は先に口を開いた。

「ごめん、陽菜」

 陽菜が驚いた顔をする。

「好きになって、ごめん」

 ちゃんと、言いたかった。

「困らせたよね。変なこと言って、ごめん」

 声が震えそうになるのを、なんとか抑える。

「もう、気にしなくていいから」

 笑おうとした。

 うまくできていたかは、わからない。

 陽菜は、何も言わなかった。

 ただ、少しだけ苦しそうな顔をしていた。

 春の風が吹く。

 制服のリボンが揺れて、視界がぼやけた。

「じゃあね、陽菜」

 最後に、それだけ言って、美月は歩き出した。

「……美月」

 小さく呼ばれた気がした。

 でも、振り返らなかった。

 振り返ったら、きっと全部が崩れてしまうから。

 好きになって、ごめん。

 でも、陽菜を好きになれて、陽菜といられてよかった。

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