人魚の目論見- 3
椿は、渚が泣いた理由を思い返した。
帰ってくるなり、追い出さないでと泣いて縋ってきた渚。
涙が真珠になったということは、それだけ彼女の中では深刻な問題だということを意味している。
「家族から逃げてきたって言っていたけど、ご家族は何をしているの?」
「ぷいっ」
「は?」
「黙秘!」
「…」
気持ちが落ち着いた渚は、いつもの調子に戻っていた。
「前にも言ったけど、椿くんのイメージを損なうようなことはしないって約束するから。それより、不老の秘密を知りたいんでしょ?」
「あ、そうだった」
渚は小皿から真珠を一粒摘みあげると、妖しい笑みを浮かべた。
「この真珠が不老の秘密」
椿は肩透かしを喰らったような気持ちになった。
「たしかに、真珠には抗酸化作用や細胞活性作用があるって言われているけど…。真珠コスメとサプリは既に試したよ」
渚はむっとした。
「普通の真珠と一緒にしないで。飲んだら分かる。砕けるものはある?」
「砕く?」
「真珠は、そのままじゃ飲めないからね」
しかし、砕こうにも、椿の家にはハンマーや摺鉢が無いので、ジャムの瓶を使って砕くことにした。
椿は真珠をハンカチに包むと、その上からジャムの瓶の底で圧をかけた。
すると、押し当てた手に、パキッと割れる感触が伝わった。
さらに何度か力をかけると、プチプチと砕け、真珠は粉々になった。
粉々になった真珠を、渚が水の入ったグラスに入れると、真珠はふわりと溶け、水面が虹色に反射した。
「さあ、これを飲んで!」
「あ、うん…」
椿は少し苦い顔をした。
椿の表情を見て悪戯心が湧いた渚は、生き生きとした表情で、グイッと椿に水を押し付けた。
「(人の体の中から出てきた、得体の知れないものを飲むのか…)」
未知なる物への抵抗感と、喉から手が出るほど欲している、若手のモデルにも負けないほどの若々しさと美貌。
天秤にかけた結果、椿は腹を括った。
「じゃあ、試しに…」
椿は水をグッと流し込んだ。
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