こぼれ落ちていく、白い夜-1
それからしばらくは、何か大きな事件が起きるわけでもなく、とうとう椿と葵が撮影した広告が解禁になった。
CM本編と、撮影の裏側を捉えた映像は、解禁日の朝のニュースでも流れて、
椿はスムージーを、渚はスムージーとハムエッグで食卓を囲み、一緒にテレビを見ていた。
「じゃあ、そろそろ行くね」
この日、椿はファッション誌の撮影で、朝から家を空けることになっていた。
「あ、そうだ」
椿は、渚に新品のスマホを渡した。
「ないと困るでしょ?でも、勝手に課金とかしないで、欲しいものがあるときは先に相談して。
あと、念のため位置情報は共有させてもらうよ?」
「ありがとう…!でも、誰とも連絡は取らないし、勝手なことはしないから安心して」
「うん。じゃあ、仕事行くから」
一人になった渚は、自分の部屋に戻ってベッドに飛び込むと、スマホでネットのブラウザを立ち上げた。
『美容外科 連続不審死』
「進展無し…か」
渚は仰向けになり、難しい顔をした。
「(いや、私には関係ない。私は逃げてきたんだから)」
それから、久々に手にしたスマホにのめり込み、ネットニュースのポータルサイトを漁っていたら、椿と葵のCMの話題を目にした。
『椿、不意打ちキスのアドリブも』
渚は、タイトルを見てドキッとして、思わず記事を開いた。
「…なーんだ。キスって、CMで流れていた、おでこのキスのことか…」
渚はほっとして力が抜けた。
だが、その記事のコメント欄には《椿と葵が本物の恋人なのでは?》
《アドリブにしては気持ちがこもり過ぎている》などと書かれていた。
「恋人かぁ…」
渚は急に不安が込み上げ、布団を被って丸まった。
「(私は逃げてきた。でももしもこの噂が本当だったら、私、出て行かなきゃだよね…)」
.




