恋を演じる-4
一方。
椿の控室に、帰る支度を済ませた葵が挨拶にやってきた。
「お疲れ様です!今日は、ありがとうございました!」
葵は、最初と同じように頭を下げた。
「お疲れ様です。わざわざありがとう」
「いえ。リードしてくださって、本当に本当にありがとうございます…!」
「ううん。緊張するよね。ああいうの、俺も未だに慣れない」
「そんな…。素敵すぎて、お仕事なのにドキドキしてしまいました…」
「あはは。おだてても何も出ないよ」
「いえ!プロのモデルさんて、本当にすごいと思いました!だって、台詞が無いのに物語を演じるのは、すごく難しいことだと思うので…」
「!」
椿の思考が、一瞬止まった。
次の瞬間、胸の奥にしまい込んでいたものを、突然引きずり出されたような気がして、椿は息を詰める。
外見の話じゃない。
仕事の話だ。
それが分かった途端、喉の奥が熱くなった。
「あの、すみません、私なんかが偉そうなことを…」
「ううん……すごく嬉しい」
そう言ってから、椿は一拍だけ間を置いた。
このまま顔を見ていたら、何かが溢れてしまいそうで、椿は無意識に葵と距離を詰めて、華奢な背中をそっと抱き寄せた。
「あ、の…?」
「ねえ、乃上さん…。」
戸惑う葵の耳元に唇を寄せた椿は、いつもよりも少し低く、掠れた声で言った。
「これは演技じゃないけど…ドキドキしてくれる…?」
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